夫のシャツ

娘が叫んでいる。文句を言っているのだ。
抱き上げるとくるくると首を左右に動かしてあたりを見回している。
私は娘を抱いたまま部屋の中を歩き回る。興味深そうに見つめているので「これは鏡。かわいい女の子がいるね?誰かな?」と遊ぶ。「ヒャー」と声を上げ足をバタバタさせて喜んでいる。

しばらくすると洗濯が終わった音がしたので娘をベビーベッドに下ろし、洗濯物を干そうとする。すると娘は再び文句を言うのだ。
わたしは再び娘を抱き上げ部屋の中を歩き回る。歩き回るのだが、洗濯機の中でかたくまとまったまま冷たくなっていく衣類のことが頭から離れない。夫のシャツは特にシワになりやすい。早く、早く干したい。

音楽のなるディズニーキャラクターのメリーのスイッチを入れ、その下に娘を置く。「大きな栗の木の下で」が愉快なリズムで流れると娘はハッとした顔をしてぬいぐるみを見上げ、手足をバタつかせて喜びだした。

わたしは急いで洗濯物を干す。
夫のシャツは最優先。
下手をするとアイロンがけという危険な上めんどうな作業が増えることになるのだ。
夫には申し訳ないがアイロンはかけたくない。
シナっとしたシャツでも文句を言わないところが夫の素晴らしいところだが、さすがにシワシワのシャツではかわいそうだ。

しかしシャツを振り回しパンパンとシワを伸ばしている間にも、また娘の声。先ほどより切実な調子で泣いている。
どうやらジタバタした際、ベビーベッドの木の柵に勢いよくかかとを打ちつけてしまったようだ。

夫のシャツは諦め、娘を抱き上げて「痛いの痛いの飛んでいけ」をする。泣いていた娘はすぐに泣き止んでわたしの胸元に真っ白な頬を寄せ、あぶくでシミを作っている。

もしかしたらまだ間に合うかもしれない。
娘をベッドに下ろし、お気に入りの音のなるおもちゃを渡し、気を取られているうちにシャツを干そうと後ろを向いた瞬間娘が叫び出す。
おもちゃを放り出し、困った顔でわたしをにらみつけ、ジュクジュクと音を立てながら中指と人差し指を吸っている。
器用なことに口に指を入れて吸いながら文句を言っている。お腹が空いたらしい。

夫のシャツはもう無理だ。
タオルと一緒にもう一度洗うと決めて赤子に乳を含ませる。
娘は勢いよく乳を飲む。
わたしはその間ひまなのでたぶん2倍の速度で劣化していく夫のシャツに想いを馳せる。

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