臭気と愁記
先日、鮒寿司を買いました。
自販機で販売していたモノですから、気付いたら札を機械に捩じ込みボタンを押してしまった訳です。
さて、匂いは記憶を鮮明に呼び起こすと言われております。
この文章は「夕食に鮒寿司を食べた私は小学生にタイムスリップした」と、いうお話です。
※にわかに食べ物の話をしていると思えない表現が出てきます。ご注意ください。
連勤の疲れがピークに達し、滋養のある物をと取り出した鮒寿司。
普段買わないお店の味を楽しみにパウチの封を切った。
中身を取り出すと、よく知っている刺激臭が鼻腔を襲った。酸っぱくて生臭い。
「コレだよコレ。」意気揚々と小皿にあける。
我慢しきれずお米の部分を食べる。普段口にしている鮒寿司のお米よりも臭みが強く、酸味と塩味が舌を刺す。美味しい。
この調子だと、鮒はどれほどまでのパンチを魅せてくれるのか。
期待と恐怖を胸に抱き、鮒に箸を伸ばす。
口に放り込み咀嚼。
強烈な刺激臭とえも言えぬ“醸された”香りが口一杯に広がり、やがて鼻に抜けていった。
「私はこの臭いを知っている」
小学校3年生、茹だる様な炎天下の夏。
田舎造りと呼ばれる木造平屋建てに住んでいた。
私は早く涼しい部屋でアイスでも食べたいなど思いながら、建てつけの悪い勝手口の扉をいつもどおり開けた。
臭い。
今日はボットン便所の汲み取りの日だった。
居間はもちろん、土間にも糞尿の臭気が立ち込め、呼吸をするのが億劫になる。
靴を脱いで居間に上がる。障子という障子が開けられていた。
少しでも風通しを良くして臭いを早く逃すためだ。
便所に一番近い部屋は祖母の部屋だった。
日中でも一切日が当たらない薄暗い部屋で、畳まれた緑色のマットレスと布団がこちらをじっと見つめてきた。
・・・と、いうのを思い出した。
鮒寿司の鮒の部分を咀嚼して思い出した。
小学5年生の時に水洗便所にかわるのだが、その頃には祖母は布団ではなくベッドで寝るようになっていた。
こんなにも鮮明に思い出せるんだなぁ・・・と、しみじみしたので家族に食べさせたら同じような事を言ってたので多分合ってます。
糞尿も醸されると、ある程度まろやかな臭気になるので、汚い公衆便所とは全く異なった臭いですので安心していただきたい。
ぜひ滋賀県の名物「鮒寿司」ご賞味あれ。
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