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ケサランパサラン / ショートショート

「別に浮かれてるわけやないから」

 横にいる者の目も見ずに、弁解の言を垂れたのはケサランである。しばらく二人は黙ってじっとしていたのだが、しんとした場に期待を込めるようにして冒頭の言葉が呟かれたのだった。もちろんこの期待はたいへん危ういもので、なぜなら、ケサランのほうでは不本意を正したい一心で言ったのではなく、沈黙がどうにもたまらなかったので、ほんの何かの進展をと、しんとした水面に小石を投じてみたにすぎないのである。しかし、どうしてもこのような場合には、少しの悪態めいたものを滲ませないと小っ恥ずかしいもので、あのような言葉になったわけだが、聞いたパサランにしてみれば、ようやく済んだと思った話を再びぶり返して、なんと往生際の悪いやつなんだと受け取ることが自然で、その意味で危ういのである。と、このような推察は世間一般においてというもので、しかし世のほとんどのことがらについては、それぞれユニークな背景を有しているのが常である。ケサランとパサランの場合も同様であった。つまり、二人の揉め事は今にはじまったものではなく、それも戯れのようなもの。所謂オトナのパサランはケサランの言葉の、あの不器用な言葉の中から、和解の気持ちを掬いとるのであった。

「浮かれてるわけやないってアンタは言うけども、ふわふわ浮いてたやん。綿毛かな思たわ」
「そら浮くがな。オマエかて浮くがな」
「ウチはもっと上品に浮きます。ほんで、オマエゆうのやめてくれへん?」
「ほななんて呼ぶんや。パサランてか」
「それがウチの名前や」
「ほな俺のことはなんて呼ぶんや」
「アンタや」
「そらおかしいがな。俺の名前はケサランや」
「ほなこうしよ。サランは共通の因数っちゅうことで無くしてしもて、今日からアンタは、ケや」
「ほなオマエはパか」
「せや」
「アホなことゆうな、ほんま」

 そういって、ふたりはふわふわ笑いあったとさ。

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