垣根 / 掌編

 粉を溶いたような薄水色に、やや暗がりを含んだ雲がいくらか浮かんでいる。大ぶりのうしろに小ぶりものがふたつ、親に付いて行く子かはぐれた子か、呑気そうに流れている。冷たさが混じりはじめた風が私を背中から吹き越して、道端にあるイヌマキと思しき生垣をガサガサと鳴らした。するとその垣根の奥から老人がふと現れた。黄色の強い皮膚をしていて、痩せていて、足元も覚束ず、肌寒くなろうこの季節というのに老人らしい鷹揚さからか、ステテコという出で立ち。小刻みに交互に足を出し、ざざざ、ざざざ、と僅かばかり進むと、おや、という風に私のほうを見た。目があった、と思うとほとんど同時に老人はすっと地面に目線をはずした。そして引き返そうとするのか後方へと反転しはじめるのであった。よたよたと方向転換する老人は生垣を支えにしようと手を伸ばしたが、葉にふれただけですぐにその指先を引いた。そうしてまた、ざざざ、と頼りない摺り足で旋回しはじめた。生垣で姿が見えなくなるかという時、肩越しにもう一度私の方へ身体をむけた。老人は鰭のような手で、くいくい、と手招きをするのだった。

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