re:3日目 (短編)
さっき降ったにわか雨のことを考えていると、スーッと雨の物憂げな身体ごと征く心が私の前を横切ったのが見えて考えもせず足先を山沿いへ向けて線路を渡った。
道は後か先かしかなく先を行くと光差し込む溜池が見えた。私はそこが誰かのお墓のように思えて、雨が度重ね通っていた動向を目で追った。
水面は美美しく鮮やかで木々が映り込んでいた。
思わず雨がそれほどまでに慕う対象とはどんなものだったのか想像したが思考すら真面に繋がらないほど圧倒され、目の前の景色を全て私のものにできたらいいのにという願望さえ抱いた。
池の深くには深緑色の苔が点在しているのだろうか。周囲の木々が崇めているように思える底に記憶を封じているように、まるで心を読まれたくないがためにいつもより大きく身体を揺すっているような感じだ。
当の私にとってはさっきまで探してた意図とした目的は必要なくなっていて、それより一度嗅いだことのある花の匂いを思い出した心地で頭がいっぱいだった。私はこの池に来るまで立て続けに心でお話ししていたがようやく静まったことを確かめた。ますますこの場所から離れたくなくなっていた。
いくら時間が過ぎただろう。
湿った空気の中に溶け込んでしまった雨の気配はもうなく、在るのは
ついさっきこの場所を見つけたばかりの私の様子をむやみに捉えようとしない、荘厳な緑で守られた、鳥や、虫や、風や木々のそよぎだけだった。
なんでだろうとは思いつつ言葉にならない理由がわかるだけで、いいことをした気分だった。
(あとがき)
雨は自らで贈る亡物への思いが溢れることさえ許し
ただの通り人の私の心を包み込んでしまった。
そして「見間違えだった」と私の飲み込まれた心さえ
見向きもせずにどこかへ行ってしまった。
この綺麗な池をお墓としてではなく
生きているのに口を閉ざした人物に
会いに来ているようだった。
自分の目鼻口耳さえ知らぬ雨の表情は
虚ろという言葉で済ますことが許されない、過去の肩書きを手放し
本来の姿を取り戻した、雨だった。
私はとても愛おしい気持ちになった。雨のその過去も
出会った人も、見窄らしいが嘘偽りないその雨を見れたことが
空に浮かぶ雲になってしまいそうなほど、言葉を見失ってしまうほど、
雨の人生で頭がいっぱいになった。
私はのちにその池の近くで
"標<シルべ>"と名乗る女の子に出会った。
回想 (雨の言葉)
<>
物語は、世界の隅から隅までに存在する。
時代なんて関係なく、年齢なんて関係なく、
ポッとはじまりは小さく湧いて、楽して生きているのだ。
<>
私の心は自由自在に、もの、人、問わず憑依する幽霊のようで
時間が足りないとはつまり、心を使うための時間が足りないと思うので、
生きてるうちに心を大事にしなかった前世でもあるのだろう。
私がここに生きてることはどうでもいいことで、
私の心が動くことは個体種に順応した小動物のように
丁寧で粗末な引っ越しのようなものだとしたら、まるで小槌を一人延々と山奥にて叩く邪気を捨てた老人とどこぞ変わらないような気がした。
<>
大事なものの大事さもわかってもらえず、
お金にならない心を一人磨いているなんて。
ただ、それが私の人生なのだ。
それだけのことなのだ。
世界に左右されない、私は自分で物語を生み出す物書きなのだ。
その物語さえ、世界のどこかでポッと湧いたはじまりと繋がってる。
わくわくしながら書いているのだ。描いているのだ。
私は季節さえ巻き添えにして心を散らしているのだ。
<>
「ほら、おじさん、
見上げたら、
想像が飛んでる
たくさんだよ
はい、」 シルべより
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?