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夢Ⅰ(40)

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☆主な登場人物☆

 眩い閃光を感じた。
 リックが、かつて用いていた「感覚」をもとに表現するなら、それは閃光と言う例えが正しいように思われた。一瞬の出来事のはずなのだが、まるで一点に止まっている、粒のような光の、一粒一粒の動きを感じ取ることが出来たし。同時に面になり色彩を運んでいる様子も伝わってくる。
 リックの末端をくすぐる振動が、閃光の尋常ならざる力強さを物語っている。
 「イナビカリ カモ シレナイ」それら光の粒のように、一文字づつ。言葉が、意味を持つ前に、生まれては消えていった。
 ビリビリと、振動に震えるているのは「四肢」ではなかった。視覚として受け取る器官を、持ち合わせてはいなかった。とてもとても、遠くの出来事を感じ取ることができるような気がするが。それも、隅々まで繊細に取りこぼすことなく、しっかりと把握できるということは、あるいは、ものすごく小さな、限られた規模の出来事なのかもしれなかった。
 時間が、止まっているようで、流れていた。逆行しているといってもよかった。未来を迎えに行く過程ですべてを同時に感じたが、それは言葉としてではなく。記憶として、それも体に刻まれた創のようなものとして理解しているようだった。

 リックは成長していた。

 芯はさらに密度を増し、濃く濃くと力を蓄え。あちらやこちらの末端は、創造を繰り返し、周囲と溶け合いながら。

 成長していた。

 失われることなく、次々と湧き出し続ける力。
 注がれ続ける祝福に細胞が歓喜に震え、創造は止まらなかった。

 

 今、コツコツと触れる蹄の感触は。「崖の棚の家族」、祖父の歩みだろう。希望に満ちたその歩みは、若さと精気に溢れている。

 あそこには、トボトボと行く一団がいる。足を引きずるこの一団は、兄や姉に介抱された「力の民」の一行で。
 それを追う引き釣られるような、リックの前のめりの足音が交錯した。

 焼け爛れの体表からは新たな創造が起こり、癒すのではなく、創を受け取り。造り替えていく。

 横たわる短剣を拾い上げ。
 短剣を値踏みし。立ち尽くし。川辺を目指し、前のめりに歩を進めていく。必要以上に踏みつける歩みから、焦りか、もしくは怒りの感情のみ、じりじりとしたものが伝わってくる。

 悲しみではなかった。
 今でも、悲しみを直視できるほど、頑丈ではなかった。

 歩みに寄り添って、ゆらりゆらりと伝わる振動は、短剣のものだろう。
 朝日を受ける草原を。
 雪原を走るソリの中を。
 月光のもと地下へと続く石柱の脇の階段を。
 森を行くヌエ達の脇で、揺れていた。


 ピリピリと、細かに体表が震えた。


 「力の民」の狂気の行進に混ざるいくつもの戸惑いの響きを感じた。
 気が付けば、ゆらりゆらりと励ますでもなく揺れる短剣を追っていた。
 まるで、一本の細い細い糸が、互いをしっかりとその張力で導くように。


 閃光が駆け抜け、力を纏う爆裂が触れるものすべてを動揺させていく。


 打ち鍛えられる刀身を、受け止める床を伝い、カチンカチンと洗練されていく。与えられていく、清らかさと似た定められた形態。
 熟達の技から生まれ落ちた名も無き短剣は人から人へ、帰還の祈りを込めて青年へと。
 そして、戦場と呼ぶには、あまりに一方的な祖父の命を奪うことになったあの広場で、ついに抜かれることはなかった。


 体表を大きく、細かく走り抜けていく、鳴りやまない雷鳴を受け取りながら。今度はなかなか鳴りやまなかった。
 
 コロコロ、ぱりぱり、ピリピリと。
 コロコロと。ぱりぱり、ピリピリ。

 コロコロ。ぱりぱり。ピリピリと繰り返すこれは過ぎ去った雷鳴だろうか。「コレハ ライメイ ナノ ダロウカ」つぶつぶと、意味を持つ前に、思考が溶けていく。光の粒が、近づきすぎると反発し、遠ざかり引き合いを繰り返し、強く弱く、白く黄色く銀色に。
 一つの橙の粒が言った「タンケン ガ」誰の言葉だったろうか。
 三つ先の白銀の粒が返す「アチラノ セカイ ヘ」これは、一人の言葉ではなかったかもしれない。
 遠ざかりながら、別の小振りの白銀の粒が言葉を置いていく「ツナイデクレル」光の差さない、あの森で聞いたのだったか?それとも、温かな家族が体を包みながらくれた言葉だったろうか。甘く心の落ち着く香りとともに、聞いたのがこの言葉だったような気もした。

 コロコロピリピリパリパリと、近づきすぎると反発し、遠ざかっては引き合いながら、一つの深緑の粒が発した「トオリミチ ヲ」また、離れたところから薄紫の光があとに続けて「 オシエテ アゲル」と添えていった。
 赤に緑に黄緑、白に近い強烈な黄色。
 無数の光の粒たちが、黒を背景に近づきすぎると反発し、遠ざかっては引き合っている。


 意識の外れで、ひと際大きな。でも、とても平凡な緑色の光の粒が「モドッテ キテヨ」、続いて澄んだ空のような青の粒が「ソレガ オワッタラ マタハナシヲシヨウ 」とお喋りしていた。
 その二つの光の粒だけが、なぜだかとても大切な物のように感じたが、膨大な光の粒たちに溶け込んでいってしまった。

♦ ♦ ♦ ∪

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