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銀河の神(#シロクマ文芸部)

(本作は1,493文字、読了におよそ3〜4分ほどいただきます)


「銀河売ります。あなたも神になりませんか?」
 そんな魅惑的な広告が目に入った私は、思わずバナーをクリックしてしまい、販売サイトに飛ばされた。
 経緯をざっと読むと、アメリカの企業が、地球から約五百万光年程離れた宇宙に新たな銀河を発見し、所有権を主張したそうだ。これが国際裁判所に正式に認められ、オークションに出品したらしい。価格は、日本円にして約二億円スタート。即決価格は三億円。現在の価格は、二億円を少し超えたぐらい。まだ様子見といったところだろうか。期限まで、数週間残っている。
 私も興味があった。そこまで高騰しないようなら、入札してみても……いや、購入すべきではないか? なんといっても、神になれるのだ。一つの銀河を手中に収め、星々を統治し、生命を支配する……こんなに名誉なことはない。政治家に成りそびれた私だが、三億円で政治家どころか神になれるのだ。こんなチャンスはまたとないだろう。
 とりあえず、二億二千万円ぐらいで入札しておこうと思ったが、既の所すんでのところで金額が金額なだけに慎重に行動すべきではないか? という当たり前の自制心が働き、もう少し様子を見つつ、銀河のことを調べてみようと思った。

 実際に色々調べてみると、少し疑問に思うことも出てきた。
 そもそも、一口に銀河といっても、その大きさは様々だ。構成される星の数も、僅か数千万個しかない「矮小銀河」もあれば、数百兆個の星を持つ巨大銀河もあり、規模が何万倍も違うのだ。
 しかし、売りに出されている銀河に関しては、その辺りの詳細が記されていない。コレは、一見真っ当なように見えても、実際は怪しいサイトなのかもしれない。
 オークションに出されている商品ヽヽは、数千万個にも満たない超矮小銀河かもしれない。そうなると、神としての威厳も大したことは無いだろう。どうせなら、巨大銀河とまでは言わなくても、やはり最低でも数兆個レベルの銀河じゃないと、格好が付かないではないか。
 それに、よくよく調べてみると、なんと宇宙には二兆個もの銀河が存在するらしいのだ。となると、ひょっとすると神もそれだけ存在するのではないか? だとすると、神の数は世界の人口を遥かに超えるではないか? 一つの銀河に一神制としても、単純計算で人間の三百倍以上の神が存続することになる。
 また、銀河を構成する何千万から何兆にも及ぶ星にも、それぞれに神が存在するかもしれない。文字通り、星の数ほどに存在している可能性もあるのだ。しかも、星によっては国家というコミュニティが既にあり、場合によっては多神教を採用してる可能性も否定出来ず、そうなると、星の数どころか、虫の数、いやバクテリアの数程に神は存在するかもしれないのだ。つまり、幾ら「銀河の神」というステータスを手にしたところで、そこまでの価値はないかもしれない。
 逆に、銀河を手中にしても、その銀河内のどの星にも、生命体が存在しないことも有り得る話だ。もし、知的生命体が全く存在しなければ、神になっても偉そうに振る舞えないではないか。
 それに、そもそも銀河にはどうやって行けばいいのだろうか? 光の速さで移動しても、五百万年掛かるのだ。おそらく、光速に限りなく近いスペースシャトルが開発されても、到着する頃には死んでいる可能性が高い。いや、確実に死んでいる。何せ五百万年だから。
 結局、入札は断念した。キチンと調べて良かった。危うくトラップに引っ掛かるところだった。一見まともなサイトに見えても、よく調べると詐欺紛いの商売をしていることもある。気を付けないといけない。

(了)


#シロクマ文芸部 に今週も参加させていただきました。


もうちょっと長い話にした方が、主人公のアホ具合をもっと書けたのでしょうけど、お遊び企画という趣旨を尊重して、キャッチーでライトなショートショートにまとめてみました。