サッカー中継(パスティーシュ)

——さぁ、日本のキックオフで始まりました。アウェーでのイラン戦、今大会の事実上の決勝戦とも言われておりますが、おっといきなり山田のロングシュート! これは大きく外れましたが、どこからでも狙うという、今大会の日本代表らしい積極性がいきなり見られました。さて、解説の村上春樹さん、相手は強敵イランですが、どのような展開になるでしょう?


「ここは日本にとっては、言わばアウェーの森ですからね、色彩を持たないビジョンでは直ぐにアンダーグラウンドへと沈むでしょう」


——両者の立ち上がりはどうでしょうか?


「良いといえば良いのかもしれませんが、良くないと言えば良くないのかもしれないし、そのどちらでもない可能性を原点とし、どちら側に振られるのか、それにより良いか悪いか、つまりメジャーコードなのかマイナーなのか、少しアンニュイなセブンスが入るのか、そういったことがジャズのポートレイトのように浮かび上がるのでないでしょうか。少なくとも、相手のサッカーIQは84以上あることは確かです」


——おっと、ここでイランがインターセプト。プレスに負けたのか、ちょっと中途半端なパスになりました。


「もっと風の歌を聴かないといけませんね」


——そのまま一気にイランのカウンター、日本の守りはどうですか?


「少し集中力を欠いているのか、センターバックの二人は振り回されて機能していません。限りなく透明に近いサムライブルーになってますから、1973年のピンボールみたいに、中央から突破されると危険です」


——その中央からスルーパスが通る! そのままノントラップでシュート! 決まったーっ! 前半四分、先制点はイラン! あ、いやフラッグが上がってます! オフサイドですね。日本代表、オフサイドに救われました。


「危なかったですね。完全に裏を取られました。4バックとダブルボランチ、六人でディフェンスに入っていたのですが、七番目の男も必要でしたね」


——さて、一転して、今度は日本のカウンターです。攻守目まぐるしく入れ替わります。ここでロングパスを……ダメだ、イランのディフェンダー陣は戻りが速い!


「日本の選手は、走りの質が良くないですね」


——と言いますと?


「足腰に粘りがないというのか、強化合宿での話ですけどね、今の代表の選手達は、走ることについて語るときに僕の語ることをろくに聞かないんですよね。だから、いつまで経っても走り方がぎこちないと言うか、ねじまき鳥みたいなんです。もっと、国境の南、太陽の西を目指して、海岸をひむきに走り込まないと」


——やっぱり科学トレーニングが主流になった現代でも、走り込みは重要なのですか?


「もちろん賛否あるでしょう。つまり、賛同も否定もあることになるとも言えるのですが、ピッチの芝生や土の状態は、日本ほど恵まれている国はないのです。つまり、日本ほど恵まれていない国が多いのです。こういうアウェイの森のような国では、グランドがフカフカしてることも珍しくありません。なので、海辺のフカフカした砂浜で走り込むことは重要になってきます」


——中盤はややイランに支配されている感じでしょうか。でも、日本も組織的に守っており、イランもパスの出しどころがなく、ボールを回すだけになっています。膠着状態ですね。村上春樹さん、日本が今の守勢を打開するには、何が必要でしょうか?


「イランの十番のハミード選手、攻守の軸として良い仕事をしていますね。ハミードがボールを持つと日本も常に2〜3人で囲ってますけど、軽くあしらわれて踊る小人みたいになっています。彼を何とか封じることが大切です」


——おっと、まさにそのハミードにボールが渡り、三人で囲みますが軽やかなステップで軽くかわします。


「敵ながら、本当に華麗な動きですね。軽やかなステップワークと切り返し、ダンスのようですね。ダンス、またダンス、日本は彼のダンスをどうにか止めないと」


——そのハミードが味方との見事なワンツーでディフェンダー陣を振り解き、二人で前線へと突破します! 二人で突破、トッパーズですね!


「えぇと……それはまた違う村上……いや、ともかくハミードを止めないと!」


——つまり、ハミードをイランの騎士団長とみなし、動きを殺す、ということでしょうか?


「もう、先に言わないでよ〜」


——大変失礼いたしました。


「いいよいいよ、だいじょうぶマイフレンド」

「えっ?」




(終)


昨日、待ち時間にほぼ使っていないXを見ていたら、たまたま面白そうな大喜利を目にしてしまい、即興で対話体小説にしてみました。