極限まで進化した生命は簡素化に向かう

「ねえ、知ってる? 私達の祖先にはね、“テ”というモノが付いていたんだって」
「何それ?」
「物の表面に触れたの」
「何のために?」
「痛みや温度を感じ取ったみたい」
「そんなもの……“テ”なんてものがなくても感じ取れるよ」
「そうね、いつもあなたを感じているわ」
「僕も。どうして“テ”は無くなったの?」
「“テ”だとね、人の心には触れられなかったそうよ」


「ねえ、知ってる? 私達の祖先にはね、“メ”というモノが付いていたんだって」
「何それ?」
「物質を見たの」
「物質? 見る必要ないよ」
「そうね、大切なのは本質」
「いつも君が見えている」
「私にもあなたが見える」
「じゃあ、僕たちには“メ”は要らない」
「そうね、それに、“メ”だとね、真実は見えなかったの」


「ねえ、知ってる? 私達の祖先にはね、“ミミ”というモノが付いていたんだって」
「何それ?」
「空気振動を受け止めたの」
「空気振動……“オト”のことだね。目的は?」
「多分、音楽を聴いたのよ」
「でも……音楽って感じるもの」
「そうね……」
「それだけのために“ミミ”があったの?」
「“クチ”という器官もあったの」
「何それ?」
「“コエ”という音を発したのよ」
「それで?」
「“コエ”をね、“ミミ”でキャッチしてコミュニケーションを築いたんだって」
「あ、それ、知ってる。“コトバ”っていうんだろ?」
「確か……そうだったと思う」
「君との意思疎通に“コトバ”は不要」
「そうね……通じ合える」
「どうして“コトバ”は消えたの?」
「本当の気持ちは……“コトバ”だと伝わらなかったそうよ」


「ねえ、知ってる? 私達、本質しかないの」
「存在していない?」
「0としての存在」
「まだ0じゃない」
「そう、0に向かっているの」
「本質は何?」
「私は私。あなたはあなた。それで充分じゃない?」


「ねえ、あなたは何を望む?」
「何も望まない」
「私は、望むことを知らない」
「忘れたのさ」
「捨てたのかもよ」
「同じこと……0だね」
「これって、会話?」
「もしかして、通信かな?」
「通じ合えるわね」
「不思議?」
「いいえ、ちっとも」


「ねえ、私達、進化したの? 退化したの?」
「さあ。簡素化されているのは確か」
「存在したい?」
「存在するってことが分からない」
「そうね、きっと……肉体の所有」
「無駄なものを持つと、本質を見失う」
「私も……このまま0に向かいたい」
「じゃあ、やっぱり、進化したみたいだね」