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普通の人と時間の流れが違ったフランツ・シューベルト

シューベルトとの最初の出会いは、ピアノ五重奏曲「ます(鱒)」でした。小学生低学年の頃、この曲のレコードが家にあったのですが、なぜか毎日というほど聴いていた時期がありました。あの何ともいえない清涼感と、目の前に広がる自然の景色、明るく澄んだ響きや、ユーモラスな楽しさに惹かれていました。ピアノ曲では、やはり小学生の頃に即興曲(作品90)の2、3,4番を弾きましたが、美しさの中にも、何かもの悲しさがあり、感情に強く訴えてくるものを感じていました。

ここで、シューベルトの生涯を考えた時、まず、31歳という若さで亡くなってしまったこと、それにも関わらず1000曲もの作品を残したことが思い浮かびます。そして600を超える歌曲を作曲したことも。歌曲では、「野ばら」「菩提樹」「魔王」「アヴェ・マリア」「セレナーデ」などの有名な曲も多いですね。詩があれば、あっという間に曲を作ってしまうあたり、表したいものの世界観を音にするのが上手だったのですね。シューベルトは歌曲以外の曲でも、やはりしっかり「歌」を楽しませてくれるという印象があります。

そして、シューベルトと言えば、孤独感。これは、父親との関係が影響しているのではないかと思います。シューベルトのお父さんは、息子の才能が凄すぎるにも関わらず、自分と同じく学校の教師になるよう息子に求め続けました。職業の安定を重視していたようですが、シューベルトとしては、溢れ出る楽想や抜群の才能を理解してもらえず、さぞ孤独だっただろうと思います。また、25歳の時に梅毒に罹ってしまい、そのことでどれだけの悲しみや絶望を感じ、亡くなるまで苦痛を感じ続けただろうと想像してしまいます。

若くして亡くなりましたが、早熟でしたし、歳の重ね方が普通の人とは違う感じはします。10代で5つの交響曲を作曲し、「死」をテーマにした歌曲も残している。初めから精神年齢が高かったので、亡くなったのが31歳と言っても、シューベルトの場合は若くない感じもします。おおらかな性格で多くの友人に恵まれていたようですが、恋愛経験は少なく、オーストリア国外に出たこともほとんどなく、人生経験を多く積んだとは言い難い様子でした。けれども、亡くなる数年前からの音楽には、悟りの境地というか、普通の人がなかなか到達出来ないような達観した世界が見られます。これは、多くの素晴らしい詩から深い人生観を得ていたことと、上記のような苦悩や孤独を味わい続けてきたからなのではないかと思います。

私が秋のリサイタルで演奏する最初の曲は、「楽興の時 第3番」です。これは、シューベルトのピアノ曲の中でも有名な、独特の雰囲気が楽しめる作品です。その次に演奏する「即興曲 op.142」は、亡くなる前年に書かれた作品ですが、第2番には、遠く憧れるような安らぎの世界があり、第3番では、温かく優しい歌をテーマに、5つの変奏曲が繰り広げられます。シューベルトはピアノ曲や交響曲、室内楽曲にも素晴らしい大作が多くありますが、私は今回演奏するような小品に、よりシューベルトらしさが表れていて素敵に感じています。

シューベルトの音楽は、けっして押しつけがましくなく、落ち込んでいる人のそばに座って、優しく歌をうたってくれるような印象があります。それは、悲しみや孤独を知り尽くした人だからこそ出来ることなのかも知れませんね。

♪~大澤美穂ピアノリサイタル~♫ http://miho-osawa.com/

2022秋リサイタル チラシ表


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