花に泣く

ラベンダーの香りで目覚めた朝はどこか物悲しげだった。二度寝をしようとするもう1人の自分をいなしてゆっくりと起き上がった。

洗面所に行って口を濯ぐ。前衛芸術のような寝癖に1人でツッコみながら、顔を洗う。今度はベランダに行って、花に水をやる。ベランダに行く道中のシンクには昨日作ったカレーの皿が乱雑に置かれていた。

近所のお婆さんが飼っているネコがベランダにいた。高貴そうだが、どこか親しげな雰囲気を醸し出している。まるで誰かさんに似ているなと1人で微笑を浮かべた。こちらに気づくと、あたかも我が物のようにベランダを闊歩していた。そのまま2度と戻ってこないような気がして、そっと目線を逸らした。

ベランダに咲いている黄色い花は太陽の方角を向いている。地元1、ひいては日本1の三日坊主だと自負している僕が唯一続けられたこと。それがこの黄色い花に水をあげることだった。太陽みたいに咲く花。その花は、部屋に戻ってもこちらの方を気にする素振りを見せずに、ずっと太陽の方に釘付けである。まるで太陽になりたいかのように。まるで太陽に誰かいるかのように。

「人生とは思い通りにいかないものである。」と、文豪を気取りながらボソッと言ってみる。
そんな気取り方とは裏腹に、キッチンにはお湯を入れすぎて薄くなったコーヒーが出来上がった。まだまだ慣れないお湯の入れる量。仮初の文豪はその薄まったコーヒーを飲んで渋い顔をした。飲めたもんじゃない。コーヒーは昨日のカレーの皿が置いてあるシンクに流した。皿にこびりついたカレーのルーが少し落ちた。

今日はやけに天気がいい。散歩しようと思い、寝巻きから着替え、外に出た。セミの鳴き声は警報みたいで苦手だ。家の周りを一周した後に少し足を伸ばして、ちょっと遠めの公園に来た。来たのは何回目だろうか。おそらく片手で足りるのではないだろうか。ギリギリ懐かしくない光景を見ながら歩いていると、大時計についた。確かここで写真を撮った気がする。そんなやっと見えてきた懐かしさと共に辺りを見回すと北西の方角に一本の花が見えた。ベランダにある黄色い花。走って近寄った。まさしくあのベランダの花だった。やはり太陽の方角を向いている。この花種はどうやら僕には興味がないらしい。

その花の横を見ると、不自然に土が盛り上がっていた。何か強い力によって隣にあった花が引っこ抜かれたような。不意に口から出た、

「僕と一緒だ。」

という言葉に反応し、子供がこちらを見ている。
少し恥ずかしくなってその公園を出た。

公園を出てからはあまり覚えていないが、多分公園の周りを散歩していた気がする。気づいたら花屋の前にいた。ベランダで育てている黄色い花は「向日葵」というらしい。君と同じ「葵」の名前が入った花。向日葵を買った。赤子を持つように大切に、丁寧に抱えた。

そして、君の眠っている場所に置いた。
向日葵は君がいる太陽の方角を向いていた。

〜終〜



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