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【PFFアワード2024】セレクション・メンバーおすすめ3作品《♯02植木咲楽》

数ヶ月間、「いい映画」と出会う旅をさせてもらった。「いい映画」の定義とは何か。これはセレクションメンバー16名全員が違う答えを持っているだろう。けれど、世界中の映画ファンは皆、映画を愛していればこそ、いつだって「いい映画」を探している。個人的には「他者の世界を押し広げる力を持つ」作品なのでは、と解釈している。つまり、その映画を観た後には景色がほんの少し変わって見える。発見を与える映画。と、いう具合。以下の4本にはそんな発見が溢れていると、私は声を大にして伝えたい。(各作品のあらすじはカタログ等掲載の、セレクションメンバーによって簡潔かつ流麗な文章で綴られた紹介文を読んでいただきたいので割愛する。)

『あなたの代わりのあなた展』

 山田遊監督の『あなたの代わりのあなた展』は、まずタイトルがいい。映画鑑賞後、この意味が分かったならば膝を打つだろう。登場人物がほぼ2人のみとコンパクトな構成だが、恋における「あなたでなければイヤ」という希求はどこから生まれるのか?「あなたの代わり」はどこから他人に務まってしまうのか?という、実験が面白い。マッチングアプリを入り口にした時代性も興味深かった。

『さようならイカロス』

 田辺洸成監督の『さようならイカロス』。大人への入り口に立った青年たちの圧迫感、どうしようもない焦燥感を焼きつけた群像劇。カメラワークは荒々しく、フレームに捉えられた俳優陣の表情は驚くほどパッションに満ちている。監督からの「今しか撮れないんだ!」という叫びが聞こえるよう。この誠実さをスクリーンで観てしまったら……。私は社会的な大人のように振る舞う自分自身に、耐えられなくなるかもしれない。

『チューリップちゃん』

 人物描写が抜きん出ていたのは、渡辺咲樹監督の『チューリップちゃん』。愛らしいキャラクターに侮るなかれ。本作は、誰もが持つ心のグロテスクさ、そして美しさを鉄球のような強度の塊にして、とんでもない速度で私たちに投げつけてくる。現在の当たり前や良いとされているモノに対して、監督が疑問を持ち、かつ自分の答えを示そうとする姿勢が清々しい。エンドクレジットで流れる歌も必聴!

『Into a Landscape』

 最後に、山中千尋監督の『Into a Landscape』。たった2分間、そして人物もセリフも存在しないアニメーションでありながら、「スクリーンの中の可能性は無限大なのだ。」という原点を、鮮やかに体現している。映画作りに触れ出した頃の興奮を思い出し、私自身とても勇気づけられた。(手前味噌で恐縮だが、この紹介文は私の担当なので熱い想いはそちらでも書かせて頂いた。)

「映画評論文は、作品へのラブレターである」とは、私が尊敬する映画評論家の言葉である。私の書き物は“評論”とまではとても呼べない稚拙な代物で、大変お恥ずかしい。けれど、入選監督たちが作品に注いだ愛情を少しでも汲み取り、ぴあフィルムフェスティバルに興味を持っていらっしゃる方へ渡すことができたら。そういった気分でこの手紙をしたためた。
上記4本以外の15作品も生彩に富んだ力作ばかり。ぜひ劇場に足を運んでもらいたい。

セレクション・メンバー:植木咲楽(映画監督)

「第46回ぴあフィルムフェスティバル2024」
日程:9月7日(土)~21日(土)
会場:国立映画アーカイブ ※月曜休館

「ぴあフィルムフェスティバル in 京都2024」
日程:11月9日(土)~17日(日)
会場:京都文化博物館 ※月曜休館

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