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【PFFアワード2024】セレクション・メンバーおすすめ3作品《♯10長井 龍》

《映画をテーマにした映画》は、『8 1/2』や『映画に愛をこめて アメリカの夜』、『蒲田行進曲』といった往年の名作から、2016年のPFF準グランプリの岩切一空監督の『花に嵐』や、2023年PFFグランプリの中野晃太監督の『リテイク』まで、古今東西で描かれ続けてきた魅惑的なテーマ。でありつつ、もしかしたら自家中毒になってしまう、危険な題材。

『さよならピーチ』

そんな《映画をテーマにした映画》は私も大好きな題材ですが、その面白さの源泉は、「映画制作ってなんでこんなに大変なの…?」から巻き起こるドタバタ劇にあると考えています。
障害が起こり、困難に向かっていく様子――それは例えば、予算がない、時間がない、まとまりがない…といった映画制作を阻む壁に立ち向かっていく状況。すなわち、葛藤や失敗、挫折に向かうエネルギーがこの映画群の醍醐味だと感じるのです。
作り手自身が普段見ている映画制作現場を俯瞰して描くからこそ見えてくる、可笑しさであり批評性。
2024年のPFFの応募作品は、《映画をテーマにした映画》がひとつのトレンドでした。

入選作品の中では遠藤愛海監督の『さよならピーチ』と、林真子監督の『これらが全てFantasyだったあの頃。』が特に映画をテーマにされている作品でした。 

『さよならピーチ』は、芸大の卒業制作で作られた、芸大の卒業制作が描かれた映画です。言わば《卒業制作をテーマにした卒業制作》。劇中では、卒制にまつわるあらゆる壁が描かれ、それはまるで「芸大での映画づくり」を批評するかのようでもあり、とても挑発的に思えて痛快だったのです。
例えば、劇中では「俳優を続けるのか、就職をするのか」という問いが描かれます。そんな人生の分かれ道を、生々しくも、時空を超えるファンタジックな仕掛けと共に描き切っている、力強い作品でした。

『これらが全てFantasyだったあの頃。』

もう1作が『これらが全てFantasyだったあの頃。』です。
本作は、夢に向かって留学をしようとしている女優が、ひょんなことから、虚構と現実、過去と現在を横断しながら、自らのフィルモグラフィーをダイナミックに振り返っていく様子が描かれる映画です。
タイトルの通り、まさに映画の撮影現場は「Fantasy」。カメラを挟んだ向こう側とこちら側で、虚構と現実が分かれるように、撮影現場はどんな嘘をも作り上げる、夢の工場。だからこそ、不思議なことだって起こる、という説得力。その空間に身を置く主人公が、あらゆる時空を横断していく歪みが快感にもなる作品でした。

2作品とも、撮影現場を批評性と共に描いているのですが、それに加え、究極的には「なんで映画を作るのか?」という意地悪な問いに立ち向かっていく映画です。

さて、この2作品を観て、《映画をテーマにした映画》の醍醐味は、「映画制作を阻む壁」のほかに、もう1つあることに気が付きました。
それは、「大胆な仕掛け」です。
『さよならピーチ』では、スクリーンの中から映画のヒロインが飛び出てくるし、『これらが全てFantasyだったあの頃。』では、時間・空間を自由かつ軽快に横断していきます。

《映画をテーマにした映画》という、映画制作者にとって自身と極めて近い題材を扱うとき、リアリティーよりも、寧ろ、映画だからこそ出来る脚色された大胆な仕掛けを用いて描くことは、とても面白いことだと思います。
それはまるで、「映画制作を阻む壁」を、映画の「大胆な仕掛け」を使って抵抗し、克服していくかのようでもあり、その態度が、映画愛に溢れているとも言えるのです。

『正しい家族の付き合い方』

そんな「大胆な仕掛け」には惚れ惚れします。
《映画をテーマにした映画》ではないのですが、入選作品の中で「大胆な仕掛け」が十分に発揮された特筆すべき作品があり、最後にご紹介させてください。それは、ひがし沙優監督の『正しい家族の付き合い方』です。

本作は、父娘のふたり暮らしの家庭で巻き起こる隣人トラブルを描いた作品なのですが、青天の霹靂のように突然、物語は転調していきます。予想のつかない展開に圧倒されることが約束されていて、おもちゃ箱のように様々な仕掛けが飛び出てきては終始楽しませてくれる、贅沢な映画でした。

今回ご紹介した3作品をはじめ、PFFアワード2024は、いま最前線の作家たちに出会える場所です。自主映画は、本質的に作家自らが作りたい映画を作るという点において、純度100%の作家性を堪能できる原液のようなものだと思います。
夏の終わり、京橋駅・徒歩1分の涼しい国立映画アーカイブで、ぜひ、お楽しみください。

セレクション・メンバー:長井 龍(映画プロデューサー)

「第46回ぴあフィルムフェスティバル2024」
日程:9月7日(土)~21日(土)
会場:国立映画アーカイブ ※月曜休館

「ぴあフィルムフェスティバル in 京都2024」
日程:11月9日(土)~17日(日)
会場:京都文化博物館 ※月曜休館

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