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【レポート】ビジョンデザインワークショップ最終日(第3日)

 フォトニクス生命工学研究開発拠点の「実現したい社会像(ビジョン)」を考える「ビジョンデザインワークショップ」の3回目が9月3日、大阪大学フォトニクスセンターで開かれました。私たちは、過去2回で「2040年に実現させたい健康で心豊かに暮らせる生活」のアイデア出しと、出されたアイデアの具体化に取り組んできました。そして今回は、いよいよまとめ。たくさんのアイデアはどのような社会像に収束するのでしょうか。当日の様子をレポートします。(フリーライター:根本毅)

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多種多様なアイデアが出た過去2回

 前回、前々回に続き、4チームに分かれました。私が属したDチーム6人は前回から2人が入れ替わり、名刺交換からスタートです。そして、事務局側からこれまでのワークショップの説明がありました。
 ワークショップの目的は、拠点の研究開発の到達点となる「実現したい社会像(ビジョン)」を考えること。第1回で「健康で心豊かに暮らせる生活」の具体例をとにかくたくさん考え、例えば「すべての人の労働時間が半分になる生活」というように計約250ものアイデアが集まりました。
 2回目は「アイデアが実現すると誰のためになるのか」を考えることによってマーケットを意識し、実現のために乗り越えなくてはならない技術面や社会システム上の壁を検討しました。
 参加者は、大阪大学のさまざまな部局や企業、研究機関から来ています。進行を務める公益財団法人・大阪産業局の浅岡陽介さんは「専門的な方々から多種多様な意見が出たのがポイントだと思っています」と振り返りました。

自由、健康、医療の三つの方向性

 事務局は2回目終了後、これまで出された社会像や課題などをどうまとめるか議論したそうです。
 拠点リーダーの藤田克昌・大阪大教授は「各チームから出たアイデアは、かなり共通点がありました。そのため、課題やソリューションの共通部分をまとめて、近さが分かるように空間的に並べてみると、大ざっぱに分けて三つの方向性が明らかになりました」と説明しました。

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 藤田教授によると、まず「自由になりたい」という方向性。創造性や働き方に関することです。「AI(人工知能)の助けを借りるのは、自由になりたいからです。時間がほしいからとか、制約から逃れたい。そういう意味で自由であるという方向性です」。
 二つ目が、健康を維持したいという方向性、三つ目が医療です。
 藤田教授らは、三つのビジョンにすることも考えましたが、最終的に「三つを包括した一つのビジョンができるのではないか」という結論に至ったそうです。「なぜ健康でありたいか、なぜ医療が必要か、と考えると、健康になることが目的ではなくて、まさに健康になって何かがしたいから。医療も、医療があるから何かができるようになります。セーフティーネットです。そのため、三つ全部重なっているのではないかと考えました」。そう説明しました。

<アイデアを空間的に並べて分かった方向性>
・自由(創造性、働き方)
・健康(サステイナブル)
・医療(セーフティーネット)

 なるほど。健康を維持し、もしもの場合に備えて医療というセーフティーネットを確保した上で、創造性を発揮して自由に働き、好きなことをする。これが、私たち参加者が抱く理想の最大公約数のようです。たぶん、世の多くの人たちが望んでいることではないでしょうか。

さて、今回は、次のステップで進められました。

ステップ1:自己紹介
ステップ2:より具体的なソリューションを考える
 2回目で抽出されたソリューションを実現可能性も踏まえて具体化する
ステップ3:ソリューションを整理する
 具体的なソリューションを確認、整理する
ステップ4:ビジョンを設定する
 ビジョン名をアイデア出し
ステップ5:WSラップアップ
 ワークショップ全体を振り返る

 前回までと異なり、今回は「フォトニクス」を可能な範囲で考慮します。

「そのためには?」と深掘りしていく

 こう書くと難しいことをしたように感じますが、実際は自由に議論しただけです。あるソリューションについて、誰が何をするかという利用シーンを具体的にイメージし、そのためには何が必要になるか、さらにそのためには何が必要になるか、というようにみんなで考えていきました。

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 例えば「生体情報を日常的に計測して、体調をモニタリングする技術」というソリューションの場合、「朝起きた時にその日の自分の行動を決める」という利用シーンをイメージし、ソリューション実現のために必要なこととして「どう測定すればいいかを定める」と考えます。
 さらに「そのために?」と問いかけ、「計測結果と体調との相関を把握する」などと考えます。さらに「そのために?」を考え、「計測データと体調データとの相関をデジタル空間上で求め、計測データから現状、今後の予測を可能とする技術を開発する」というように突き詰めていきます。アイデアの深掘りです。浅岡さんは「一番下に来るものが、研究テーマになります」と言い添えました。技術面だけでなく、社会や大学の制度なども考察の対象です。

チームで議論、そして枠を超えて議論

 各チームがそれぞれ三つのソリューションを担当し、私たちはまず「適切な食物を生産できる技術」について議論しました。チームによって細かいやり方は異なったようですが、私たちDチームは議論の内容をファシリテーターの方がどんどん付箋に書き記し、ホワイトボードに貼り付けていってくれました。

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 議論は頭の体操になって楽しかったです。例えば「そもそも適切ってどういうことだろう」「ということは、必要な栄養の摂取と、おいしさの追求の両方がある」などと考えました。また「カロリーが低い甘味料と同じように、塩味はするけれど塩分を取ったことにならないものはできないか。塩分の制限が必要な人は助かる」と発言すると、チームのメンバーから「10年以内にできるかもしれませんよ」。そうですよね、企業はそういう発想で開発に取り組んでいるのでしょう。
 大学の研究者にとって、未来の姿から逆算して研究開発のテーマを考える「バックキャスト」は慣れない方法のはずです。しかし、企業では当たり前のことなのだと気付かされました。私は理学研究科の出身で、研究室にいた時はバックキャストではなくフォアキャストの発想でした。今でもフォアキャスト的考え方です。
 さて、チームでの議論の後は、近いソリューションをまとめ、チームの枠を超えて議論です。テーマごとに議論が白熱していました。

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実現したい「あるべき社会」を一言で表すと?

 最後に、これらの議論を踏まえてビジョンを考えました。今後、事務局で最終的に整理し、ビジョン名を明らかにするそうです。発表が楽しみです。
 拠点リーダーの藤田教授は「今後の拠点の方向性を決めるのにものすごく有意義なワークショップでした。みなさん拠点で活躍していただくメンバーです。議論した夢を、一緒に実現していきましょう」と話し、締めくくりました。

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