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#3 夢に出てくる泣けるカレー、サンライン。カレーと美とかっこよさについての論考


美しさってなんだろね?と訊かれたら、「お前だよ。」と答えたい。


どうも、毎週月曜更新、勝手にカレー哲学。
カレーは道であり、カレーはBGM。


哲学の歴史が真理が存在しないことを証明するための歴史であったように、カレーの歴史は「カレーなんて存在しない」ことを証明する方向へ向かっているように思える。「なんでもカレーである」ということは「カレーなんて存在しない」と言っているのと同義なのかもしれない。


最近、かっこいいカレーってなんだろうか?ということを考えているうちにあるカレー屋さんのカレーが夢に出てくるようになったので、今回はそれについて書く。


そのカレーとは、白金高輪のサンラインというお店のカレー。


聞いてもいないのに、「お水は一切出しません」という注意書きが。前情報によるとかなり辛いカレーで、どんなにむせても絶対に水は出してくれないらしい。以前インド人のお店でも同じことを言われたことがあるが、水を飲むとカレーの薬膳効果が薄まってしまうというのが理由という。

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カレーの概念を打ち破る

メニューは一種類だけ。注文の必要はない。席に座ると自動的に出てくるタイプのカレー屋はいくつかあるが、そういうお店は潔いし、概してかっこいいと思う。

座席にハガキが置いてあり、医食同源と題してこだわりとカレーの作り方が書いてある。かなり歴史があるお店らしい。(情報によると名古屋で昭和25年に創業だとか)

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カレーの登場前に、マット代わりの「カレー心得」というのが出てくる。店主の言葉らしいが、「水欲すれど今暫し我慢せよ されば辛さ次第に心よき甘さに変ずるを知らむ 人生又かくの如し」とある。カレーも修行、人生も修行である。

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現れたのは、辛口で潔いカレー

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そして出てきたカレーのなんと潔いことか。胚芽米に、ほぼスープのような汁気たっぷりの(英国風?)カレーソースが。具は一切なく、色々なものが溶け込んでいる香りがする。


一口食べてみると、やはり辛い。しかし、激辛というわけではない。元祖辛さ100倍のボルツの系列店「ミニボルツ」やマジックスパイスの「アクエリアス」なんかの方がよっぽど辛い。


おかみさんに見つめられながら、若干の緊張感を持ちつつ食べ進める。酷く喉が渇くかと思えばそうでもない。胚芽米にサラサラのカレーが馴染んでとても美味しい、いや、美しいカレーだと思った。


辛さの中に旨味があり、とてもスパイシーというわけではないが香り高く、黙々と食べ進んですぐに完食。代わりに一切水を飲まずに食べたせいか、汗がだらだらと出て止まらず。体がとても温まった。1月の寒い日だったが、かなりポカポカして上着を脱いでしまった。これが、薬膳か。


以前は最後にアイスが出てきたらしいが、今回はカレーだけだった。


入店から退店までわずか10分ほど。その間に、目まぐるしく色々なことを考えた。自分で「カレーの概念を打ち破る」と言っているように、とても考えさせるカレーだ。



かっこいいカレーとはなんだろう?

サンラインのカレーを食べて、僕は「とてもかっこいい(美しい)カレーだ」と思った。他にもいくつか、かっこいいと思うカレーがある。具体的な名前は挙げないが、そこにはいくつかの共通点があると思う。

例えば、尖っているカレー。あと、客に媚びないカレー。それから、「美味い」という字は「美しい味」と書くように、なによりまず美味しいこと。


でも、なぜそういうカレーを美しいと思うのだろうか。


尖っているカレーはバランスが悪い。特にサンラインのカレーは、とてつもなく尖っていると思う。俺はこうしたいというコンセプトが明確だ。逆に言えば、それ以外は捨てている。好みは分かれるだろう。でも、みんなに好まれるものなんて、誰にも響かない。


ターリー、ミールス、あいがけというのも大好きなんだけど、保険をかけず「チキンカレーしかありません!」みたいに、一品バシッと勝負しているようなカレーを美しいと感じてしまう。「僕はラムキーマに賭けているんです!」みたいな、そういう危うさに惹かれてしまう。まあそういうカレー屋さんが他にどんなカレーを作るのか、むしろ自分のためには普段家で何を作るのか、というのも気になってしまうのだが。


カントが美について言っていたのは、美は何か目的があって存在しているわけでもないし、利害関係があるわけではないっていうことだった。何の役にも立たない、バランスの悪い自己満足なものなのに、人間は「なんかいいねぇ!」と思ってしまう。そして、それでいいと思うのだ。自己満足って美しい。


「何かの役に立つ」というのが二の次でいいと思うのは、今の世の中理想でしかないのかもしれない。「より多くの人が求めるものが、最も価値があるものです」という世の中だから。


今まで生きるためだけに使っていた認識能力が、自由に遊び始めた。そのときに生まれる無駄なものが美しい。生きるため、保存のために使っていたスパイスが、必要を超えてより美味しいものを追求するための遊びになった。それがカレーであって、カレーは遊びでいい。


不特定の誰かのためではなく、あいつがこっそり作った、そんなカレーを食べたい。あなたがなんかいいなって思ったカレーを貫いてほしい。


あなたのかっこいいカレー、教えてください。




あまり更新してないけど、ブログもやっています。⬇︎




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