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#46 カレーを2ヶ月間毎日作り続けて考えたこと

4月7日に東京と大阪を含む7都府県を対象地域として宣言が発令された緊急事態宣言が、5月25日に全面解除された。


自分は3月末から既に2ヶ月ほど毎日カレーを作り続けている。緊急事態宣言は一旦解除となったものの生活は変わらない。これからもカレーを作り続けると思うが、ここら辺で一度、作ったカレーと考えたことを振り返ってみたい。

レシピを素読する

自粛生活においてカレーを作り続ける上で、好きなカレーや適当なカレーを作る日もあったが、「一つのレシピ本をちゃんとコンプリートしてみる」ということに挑戦していた。

カレーのレシピ本は次から次へと新しいものが出る。ついつい自分の好きな料理や手元にある材料で作りやすいレシピばかりピックアップしてしまって、難易度の高いレシピやめんどくさいレシピをスキップしてしまう、ということはないだろうか。それがカレー(または別の何か)を独学する上での一つの問題点だと思う。


良いレシピにはなんらかのメッセージが込められている。食材の特性を理解し、その風味を生かすためにあえてとある工程を最後に持ってくるとか、押し出したい香りを生み出すスパイスの量を多くしているとか。わかりやすくするために平坦な香りになることを承知で、一定比率のスパイスの調合を使い回すとか。

レシピ本にある一見浮いているような料理や、不可解な調理工程。それが何の目的で取り入れられているのかはなかなか一回では分からないかもしれないが、信頼できるレシピならば(ここが重要だが)、恐らく何らかの意図がある。

そういう意図を汲み取ってみたく、マイブームであるベンガル料理のレシピのコンプリートを目指した。いくつかの料理は作ったことがあったが、中には材料の入手性が悪かったり調理時間が長めにかかるようなものもあって後回しにしていたのである。


ベンガル料理はインドの西ベンガル州とバングラデシュを中心とし、アッサム州やオリッサ州なども含むベンガル語話者がいる地域全体に広がっている郷土料理のことだ。『ベンガル料理はおいしい』**は主に西ベンガルの料理を中心に35種類のレシピが載っているが、別の料理に浮気したりもしつつ、約3週間かけて全ての料理を作ってみた。

↑実はユザーンさんにサインもらえました(自慢)。

 

西ベンガルの料理を一通り作ってみたので、同じベンガル料理として括られるバングラデシュ(東ベンガル)の料理も作って対比してみたく、ネット経由で入手した「バングラデシュの家庭料理レシピ」という同人誌のレシピも一通り作ってみた。

西ベンガルは比較的複雑な工程を経ることが多く、砂糖とマスタードオイル を多用する。東ベンガルはシンプルで砂糖は余り使わず、材料を混ぜた後に煮るだけというようなストレートな味わいのものが多い。



あらゆるレシピには意図がある。無視してアレンジを加えるのは簡単だ。しかし、それではレシピの意味がない。まずは寺子屋で子供に漢文を素読させるように、まず一度はレシピ通りに作ることで、型を身に付けその料理を習得するとっかかりができるのではないだろうか。辞書を引くためにも、まずはアルファベットを覚える必要があるのと同じだと思う。

この二つの本を終えた後は、YouTubeでベンガル料理のレシピを探して作ったり、全然関係ないけど皮をこねて餃子とモモ(ネパールの餃子)を作ってみたり、以前だったらめんどくさくてやらなかったような料理にも挑戦できている。



2ヶ月間カレーを作り続けて考えたこと

以前の自分はカレーを作るのはせいぜい週4回くらいで、そのほかの日は平日の夜でも家と反対方向までカレーを食べに行っていたし、土日には電車でかなり遠くまでカレーを食べに行っていた。行き帰り、移動も含めてどれも素晴らしいカレー体験だった。

カレーという文化、カレー屋さんという場所が好きで、外でカレーを食べるということは自分にとってただの食事の枠を超え、「旅に出る」とか「異化なるものに触れる」というレベルのものになっていた。カレーは美味しいが、それだけじゃない。「意味性」が強い。なんだかやたらと心を動かされるのである。


自粛生活に入ってからは毎日何らかのカレーを作り、充実してきた冷凍カレーのお取り寄せやテイクアウトのカレーを食べたりすることもある。しかし、なんだか違うのだ

多くの人が言っているが、自分の作ったカレーは味は美味しくてもなんだかツマらない。種を初めから明かされてしまった手品のようだし、犯人の名前がわかってしまっている推理小説のようだ。新鮮な驚きがない。

テイクアウトは美味しいし、先日食べたCOOL INDIAのカレーは完成度が高く確かなトリップ感があった。でも、自分はカレー屋という空間で食べるカレーが好きだったのだ。空間も含めての「カレー」だったのだなと思い知る。


自分のカレーを食べてもなんだか満たされないものの、作ることそれ自体は楽しい。カレーを作る喜びは、端的にもの作りの喜びだ。プラモデルのように、作る工程が楽しい。

先ほど取り上げたレシピ本の中に、「一晩マリネした肉を1時間煮込んだ後で揚げ焼きにしておいたじゃがいもと一緒に加熱し茹でておいた卵や揚げておいた玉ねぎとホールスパイスを袋に詰めて成分を煮出し予め水に漬けた米を湯取りで炊き層を作って蒸し上げていく...」というとても複雑な工程を経るムスリムの炊き込みご飯、ビリヤニのレシピが載っている。

これを作っているときは、同時進行でいくつものタスクが動いていて、チャキチャキと仕事を終わらせていくことが快感でもある。

気持ちのボルテージは完成する瞬間まで高まっていき、実際に食べる頃には少し冷めてしまう。「美味しくできた!」と思うこともあるが、食べると自分のカレーに対しては100点をあげることができず、反省点ばかりが見えてしまう...。


なんだか自分の生き方を反省したくなるような話だが、カレーを作り続けることで、以前よりカレーの構成要素について深く考えるようにもなった。油の種類、スパイスの加熱の仕方、具材の切り方、米との相性、などなど考えるテーマは数限りなくある。


そんな中、なんとなく思いつきで始めたLINEオープンチャット 「🍛カレーのオープンチャット🍛が開始1ヶ月で参加者100人を超え、カレーに関する身近なお悩みからマニアックな話題までが日々繰り広げられるようになった。

さらに、参加人数が増えてきたので深堀したい話題を決め、一週間単位で深堀していく「考える部屋」を作った。


今週のテーマは「油」となり、油のこと以外は投稿禁止。「高温の油と低温の油でスパイスを加熱した時にどんな差が生まれ、それは何故なのか」ということをひたすらこってり話し合うことができて楽しい。とても知識と情熱のある変態紳士な方々が集まっていて、スパイシーな刺激をもらえている。

もしカレーシェアハウスを作ったらこんな感じなのかなと、オンラインではあるがシェアハウス気分を味わっているこの頃。考察や実験など含めて、今後はまとめをnoteにアップしていきたい。

オープンチャットはこちら↓

オープンチャット「【雑談・共有部屋】🍛カレーのオープンチャット🍛


いま一部でめちゃくちゃ売れている、流行のインド鍋も買っちゃいました。



ブログはベンガル料理のことばかり最近書いているが、noteと並行して更新していく所存。



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