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考える部屋 #2 【実験】フェヌグリークシードで納豆を作ってみた(フェヌ納豆)

カレーの主要スパイスであるフェヌグリークシードを豆として利用し、納豆を作ってみましたのでここにご報告いたします。


はじめに

メティシード、またはフェヌグリークシード。和名は葫蘆巴(ころは)。なんだかコロナに似ていて嫌だが、コロ助、などと呼ぶのもいいかもしれない。個人的にはフェヌちゃんの愛称を採用している。

油に入れてじっくり加熱するとメープル様の香りが漂う。ネパール料理やベンガル料理、南インド料理でも多用されているスパイスである。名前にはあまり馴染みがないかもしれないが、実は日本で販売されているカレー粉の香りにおいても重要なキースパイスでもある。

加熱が足りないと噛んだ時に尋常じゃない苦味を感じたりするため、必ず黒くなるまで加熱するか、よく煮込んだりアチャールなど成分が抜け出る使い方をする。スパイスとして使う量は少量だが、これがないとなんだか物足りない。

そんなフェヌグリークであるが、実はマメ科の植物である。そのこと自体は知っていたのだが、スパイス以外の使い方を試したことはなかった。豆として食べたらどうなるんだろう。ダルとしてスープにしたりできるのか?

今回は、そんな豆としてのフェヌグリークシードを食べる方法を模索していく。
フェヌグリークの魅力を最大限に引き出すための方法論としては、カレー変態仲間のdoya.さんのnoteが非常に参考になります。


カレーと発酵

カレー好きが集まる🍛カレーのオープンチャット🍛というオープンチャットを運営しているのだが、その中でもガチな人が集まるカレーを考える部屋という部屋を運営している。週替わりでテーマを決めてカレーにまつわるテーマを考えていくのだが、第二回のテーマが「カレーと発酵」だったので発酵がらみで何かやってみよう、というのがそもそもの事の発端だった。

まず発酵とは、微生物の働きを利用して食品に変化を起こさせること。人類に有用な働きであれば発酵、そうでなければ腐敗であり、食べられるかどうか、というくらいしか線引きはないようだ。

人類が発酵に利用している菌は主に乳酸菌・枯草菌(こそうきん)・酵母菌などがある。


インド料理に無理やり絡めて言えば発酵アチャールやヨーグルトは乳酸菌の働きを利用している(しかしインドのアチャールは基本的に発酵を排除する方向に進化したという話があり非常に気になる)し、ナンが膨らむのは酵母菌のおかげだ。では枯草菌による発酵は利用されているのだろうか?

枯草菌は色々な植物の表面に偏在している菌である。その枯草菌の一種に、日本人おなじみの納豆菌がある。ワラの表面にいるイメージが強いが、高野氏によるとワラに拘らなくても葉っぱを使えば納豆ができる。

『謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉ー』(高野秀行)ではヨモギ、ワラ、イチジク、シダ、ササ、ビワの葉っぱで納豆作りに挑戦しており、ワラ以外でも納豆ができたし美味しいという結果になった。それぞれ個性があり、香りはワラ、糸引きはイチジク、味はビワとササ、総合優勝はビワの葉っぱという結論を出していた。

そういえば、納豆菌は殻に守られていて強いらしい。煮沸消毒しても死なないし、日本酒の蔵とかに持ち込むと麹菌がみんな死んで大変なことになるとか、ドーサをうまく発酵させるために納豆断ちをしている人がいるという話を聞いたことがある。

話が逸れた。結論から言えば、ネパールやミャンマー、インドでも北東部などでは納豆を食べる。日本のミャンマー料理店でひよこ豆の納豆を食べたことがあるし、阿佐ヶ谷のネパール料理屋にはキネマのスープがあった。

日本は納豆文化のある「唯一の国」だと思っているきらいがあるが、実はネパールやタイ、ミャンマーにも納豆があり、煎餅にする、スープのダシとして使う、など様々な食べ方をしている。日本のように納豆をほとんど生でしか食べないというのは、むしろ「納豆後進国」であるとも言える。

このような納豆に対する関心と、フェヌグリークを豆として食べたらどうなるんだろう?という単純な興味が合わさって、フェヌグリークで納豆を作ってみることにした。


フェヌ納豆を作ってみた

ということで、実際にフェヌグリークで納豆を作ってみた。以下、フェヌグリークに対する若干のフェティシズムを込めて「フェヌ納豆」と呼ばせていただく。

自粛期間中、考えることはみんな一緒で、やたらと納豆を自作しよう!系の記事がいくつか出てきており、作り方を参考にさせていただいた。大豆納豆の作り方なのでこれがフェヌ納豆にそのまま適用できるかはわからないのだが、とりあえずやってみた。


方法


①50gのフェヌグリークシードを計測。

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②水に一晩浸けたらめちゃくちゃ膨らんだ。やはり君もお豆なのですね。

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水がフェヌ汁でトロトロになっているので舐めてみるとメティ味がすごい。苦味もかなり出ている。


③圧力鍋でフェヌの煮豆を作る。指で潰れるくらいの固さにならないと納豆菌が中に入ってくれないらしい。

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煮上がった状態は、なんだかとても豆っぽい。もやしの頭みたいな。水に浸けたから発芽したのではないかと思われるものもあった。

煮豆を食べてみると、完全に豆。後味にメティの苦さが残る。甘くないあんこのようだ。

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④市販の納豆大さじ半分くらいにちょっと冷ましたお湯を入れてフェヌ煮豆に混ぜた。

これが発酵スターターになるのだが、ちょっと量が少なかったかもしれない。

使う道具はお湯で全て殺菌しておく。


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⑤納豆菌の発酵には40℃前後の温度が必要だ。水筒に半分ほどお湯を入れ、その上にキレイなビニール袋に入れたフェヌ煮豆をお湯につからないように入れる。この方法は記事を参考にしたのだが、記事中でもあまりよく発酵していなかったので段ボールに湯たんぽなど他の方法も試すべきだったと思う。

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納豆菌は好気性なので、空気が入るようにしつつ乾燥を防ぐため、濡れぶきんを被せて24時間放置した。翌日水筒の中の湯温を測定すると45℃前後が保たれていたため、温度の条件はクリアしていたと思う(多分)。象印、やるじゃねえか。。

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途中で様子をみたり取り出したり臭いをかいだりしていたのだが、段々と納豆っぽい臭いがしてきた気がする。メティっぽい匂いも同時に漂い、手についてしばらく臭いが取れない。これは、ひょっとするかも...?


⑥最終的に26時間45℃で発酵、させたあと冷蔵庫で一晩熟成させてみて、こうなった。冷蔵庫で追熟させるのはアンモニアを発生させないため。

見た目は完全に納豆。臭いは納豆の香りがする、がこの時はテンション上がりすぎてちょっと冷静さを欠いていたように思う。納豆の香りはあったもののそんなに臭くはなかった。全体的に糸の引きが弱く、粘りはほとんどない。


実食

それでは実食タイム。金曜の夜に作り始め、日曜日の朝に食べるというスピードのあるスケジュール感。

まず4つにフェヌ納豆を分け、冷蔵庫にあったチャットマサラ、醤油、オカメ納豆のたれ、たこわさでそれぞれ食べてみる。

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感想:
・フェヌグリーク納豆、かなり粘りは弱い。
・豆の周りがプルプルした透明な膜で包まれている。生で食べると口内にまとわりつく感じで、風味は完全に納豆、少しフェクグリークの苦味がある。
・チャットマサラは香りはインド、でも上滑りしてボディを受け止められてない感じ。
・キッコーマン醤油は、シンプルに煮豆っぽくなります。そう言えばフェヌグリークで醤油も作れるのか?
・オカメ納豆タレ!バリウマイ!納豆食べるために研究に研究を尽くされたソース。カラシも、ベンガル料理ではマスタードとフェヌグリーク一緒によく使うし相性ぴったり。
・たこわさは、悪くはないけど一体感がない。単体で食べた方がうまい。



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今度は炊き立て土鍋ご飯との相性を試してみた。奥のは自家製マンゴーアチャール。

感想:
どれもあまり米は進まない。オカメダレのフェヌ納豆が一番米にあうが、米の甘味と出会うとフェヌグリークの苦味が強調される感じ。

途中で罰ゲームみたくなってきてホントに気持ち悪くなってきて、普通の大豆の納豆をかけてかきこむように食べた。

ってか大豆の納豆うますぎ!!!人類は様々な豆を試した上で、不味い納豆は淘汰されたのではないだろうか?フェヌ納豆もきっとどこかには試した先人がいるに違いない。苦味が強く、大して美味しくなかったからフェヌグリークはスパイスとしての使われ方に甘んじているのだと思う。


考察とまとめ

フェヌ納豆は一応できた(美味しくはなかった)のだが、よく考えると不可解な点がいくつかある。あれは本当に発酵できていたのだろうか?

確かに風味は納豆だったのだが全体的に粘りが弱く、表面はなんだかゼラチン上のもので白っぽく覆われていた。臭くはなかったのだが、食べた翌日はお腹が痛くなった。二回食べて二回ともお腹が痛くなった。

で、いろいろ調べてみるとこれは雑菌が繁殖していたっぽい。水が腐った時にドロドロになるのと多分一緒。

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発酵がうまく行かなかった原因としては思い当たる点がいくつかある。


・まず、タネとなる納豆の量が少なかったかも。
・納豆が横に広がって呼吸ができないと納豆菌がうまく広がらないので、水筒に縦に詰めるのは窮屈で厳しい環境だったかも。
・水筒での温度管理は難易度が高い。最初のお湯は熱すぎたかもしれない。タッパーに入れて段ボール保温などでフェヌちゃんをのびのびさせてあげればよかったかも。
・発酵の途中で蓋を開けちゃうともうダメという話も。。。
・時間も、24時間ではまだダメで二晩くらいはかかるという話も。


などなど、たくさんのifが僕とフェヌちゃんを苦しめる。
味という点では煮豆よりも蒸し豆にした方が良いなど、作り方にはまだまだ改善点がありそうだ。


食べ方についても様々なアプローチがありそうだ。日本の納豆の食べ方に囚われてしまっていたが、アジアでは実に色々な納豆の食べ方がある。ネパールではキネマという納豆を干したものをお湯で戻して料理に使うのだが、スープや魚を使ったタルカリ(おかず)、アチャール(簡単な漬け物)などバリエーションに富んだ食べ方がある。中でもグンドゥルックなどと混ぜたアチャールは絶品らしい。

ネパール料理のバリエーションとしての納豆料理にもチャレンジしたいし、フェヌグリーク納豆作りも再挑戦しないといけない。さらにはフェヌグリークで豆腐は作れるのか?という疑問も上がってきており、これに関しても試してみたい。フェヌグリークは実はひよこ豆よりもタンパク質が豊富に含まれているので、うまいことやったら固まるのではないか?それをパニールの代わりに具材として使ってみたり。

早速、フェヌグリークを箱買いしよう。


おわりに

今回は失敗となってしまったが、学ぶことも多かった。記事を書くにあたり参考にした、高野さんのアジアの納豆を巡る旅の本が非常に面白かったのでおススメしたい。このお方、やっぱり変態です。


参考文献:『謎のアジア納豆ーそして帰ってきた<日本納豆>ー(Kindle版)』(高野秀行, 2016, 新潮社)


カレーシェアハウス、近いうちに高円寺周辺に作ります。実現するまで夢を語り続けるぞ〜!!




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