レナードの朝を巡る駄文


レナードの朝を巡る駄文.(コメント歓迎)

レナードの朝(Awakenings)がbased on the true story というのを売り文句にしているが,ほんとかいなと以前から気になっていた。

何十年も寝たきりの人が、L-dopaを飲んだからって、動き出して1920年から現在によみがえって、パーティーしたり遊びに行ったりするのかい、という疑問はある。本当に何十年も寝たきりでいくらニューヨークとはいえ当時1970年前の医学レベルで拘縮も骨粗鬆症もフレイルもなくケアで維持できているのかという疑問がのこる。

パーキンソン病の映画の古典とされているが、患者さんはパーキンソン病ではなく第一次世界大戦の頃流行した嗜眠性脳炎に罹って病院施設に収容されている方々である。パーキンソン病にL-dopaが有効であるのは今更論を待たないが、嗜眠性脳炎後のパーキンソニズムは大分病態が異なると考えるのが妥当であろう。期待できるとしたら変性性の進行性疾患ではなく停止性のパーキンソニズムであろうということである。

パーキンソン病の映画は21世紀になり数多く創作されているが、この映画は原作が神経科医(脳神経内科医といっておこう)の、オリバーサックスであることである。医師目線からの創作映画として今となってはユニークである。

正統的なトレーニングをうけ、正当なアカデミック界にて活躍されていたサックス氏がどうしてこのような映画を製作したかについてはBritish medical journal への投稿があり自身で解説されている。嗜眠性脳炎におけるL-dopaの効果についてはDBカーン(後にバンクーバーのUBCの教授となっている)の1969年のやはりLancetの論文が標準のスタディーである。当時から嗜眠性脳炎の患者さんは大変に少なかったし、まとまって入所されている病院もすくないようである。カーンはロンドンの病院からの報告をしていて、40例をまとめている。どうやら寝たきりの方から半数は車椅子生活程度の方もいたようで、寝たきりの患者さんにはあまり効果がなかったが7人はかなりよくなったとの報告であり、停止性の病態であったからこそ長い罹病期間である程度もともと動けていた人の運動機能がよくなったと現在の目でみると推察される。L-dopaの副作用も多かったことは既に記載されている。

さてサックスはニューヨークの病院で同様のスタディーをして発表しようとするが、最初に嗜眠性脳炎のL-dopa投与の副作用としての呼吸器症状についてLancetのレターで載せてもらえたものの、L-dopaスタディーそのものの論文はアクセプトされない。1972年にようやくアクセプトされた認知症のあるパーキンソンにズムについてのL-dopaの効果についての論文には2例の嗜眠性脳炎後の患者が含まれているが無効の結果となっている。嗜眠性脳炎についてのL-dopaの効果の論文がin press として引用されているが、検索してもみつからず結局アクセプトされていないのかもしれない(情報要)。レターのやりとりはいくつかLancet に掲載されるものの、論文には査読者からかなりきびしい評価がきたらしく大分恨みがあるようである。そのせいかアカデミックとの距離をおくようになって学問的活動をあきらめてしまう。自分で治験を組んで、プラセボの方にもL-dopaを投与し、当初の計画より長期に継続してしまうなど、サックス先生はセイヤー先生のように患者思いで優しいが、それは学問的には徒になってしまったのかもしれない。ニューヨークの病院で勤務し続けるのはセイヤー先生と同様のようである。その後しばらくして一般誌の編集者に患者さんのストーリーを書いてみないかとすすめられ、原作ができるようである。一般誌であるのでレビューもはいらず、一字一句訂正することがなく出版できたとのべている。できあがった原作は絢爛でストーリー性が豊かで、アカデミックなサックス先生でなく小説家のサックス先生になっており、その後のサックス先生のストーリー豊かな神経学をめぐるたくさんの小説がうみだされるスタートとなっているようである。

Based on the true story…そうかも知れないが映画には大分創作がはいっているのだろうなとうがってみるのが適切なように思う。

参考文献

Calne DB, Stern GM, Laurence DR. L-dopa in postencephalitic Parkinsonism. The Lancet 1969 12 Apr. 744-747

Sacks OW, Kohl M, Schwartz W, Messeloff C. Side-effects of L-dopa ub postencephalitic parkinsonism. The Lancet 1970 9 May 1006p

Sacks O. The origin of “Awakenings” British Medical Journal 1983 (287) 1968-1969

Sack OW, Kohl MS, Messeloff CR, Schwaltz WF. Effects of levodopa in parkinsonian patients with dementia. Neurology 1972 (22) 516-519

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