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【Phidias Trio vol.5】曲目紹介:アルバン・ベルク《室内協奏曲より 第2楽章 アダージョ(クラリネット三重奏版)》

2022年6月23日「Phidias Trio vol.5 "Connect the Dots”」、引き続き曲目紹介シリーズです。
(公演詳細はこちら→ https://phidias-vol5.peatix.com

今回は《室内協奏曲より 第2楽章 アダージョ(クラリネット三重奏版)》(1923-25/35)のご紹介です。

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アルバン・ベルク(1885ー1935)

1885年、オーストリア生まれ。裕福な家庭で育ったベルクは、早くから音楽や文学に興味を持ち、15歳の頃、独学で歌曲の作曲を始めます。1904年にアーノルト・シェーンベルクと出会い、彼のもとで作曲を学びました。同じ時期にアントン・ウェーベルンとも出会います。

ベルクは、シェーンベルクの影響により、無調や12音音列を用いた作曲様式を取り入れますが、徐々に独創的なスタイルを確立していきます。

ベルクにとって作曲とは、秩序と自由の共存による音の構築でした。厳格なルールに基づく12音技法や、既存の形式的な枠組みを使用しつつも、そこに自身の本来的な傾向としての耽美的な叙情性を融合させることを試みています。

オペラ《ヴォツェック》の成功により名声を成しますが、ナチスの台頭によって、順風満帆と思われた彼の人生は暗転し、不遇の時期を過ごすことになります。

1935年、ベルクは、アルマ・マーラーの娘のマノン・グロピウスの死に接し、《ヴァイオリン協奏曲》を異例のスピードで書き上げます。しかし、その数ヶ月後、自身も、虫刺されに起因する腫瘍の手術から敗血症を併発し、オペラ《ルル》の完成を待たずにその生涯を終えます。
数こそ多くはないものの、ベルクは20世紀の主要なレパートリーとなる傑作の数々を残しました。

《室内協奏曲より 第2楽章 アダージョ(クラリネット三重奏版)》(1923-25/35)

今回演奏する《アダージョ》(クラリネット三重奏版)は、《13の楽器のための室内協奏曲》の第2楽章を、ベルクが1935年に、クラリネット、ヴァイオリン、ピアノの編成で書き直したものです。

1923年、ベルクは《13の楽器のための室内協奏曲》の作曲に着手しました。当初、この作品は、シェーンベルクの50歳の誕生日に献呈される予定でしたが間に合わず、1925年に完成することとなります。

ベルクは、数や音名を象徴的に用いる傾向がありますが、この作品においても「3」という数字が非常に重要な意味を持ちます。
3つの楽章、鍵盤楽器 / 弦楽器 / 管楽器という3つの楽器群、Schoenberg / Berg / Webernの名前に含まれる音名による3つの主要動機、さらに、楽曲構成においても三部形式が意識されています。全体の構造は、概ね「回文」のような形になっており、中間部のピアノによるD♭の音を境にミラーのように反転します(A-B-A’-A’-B-A)。

作曲のスケッチの段階では、第2楽章に「愛」という副題がつけられており、1923年10月に亡くなったシェーンベルクの妻、マティルデの名前(Mathilde)に含まれる音名(a-h-d-e / ラ-シ-レ-ミ)によるモティーフが散りばめられています。
このように、楽譜には様々なからくりが隠されているのですが、楽曲の響きはきわめて耽美で、無調的な音と調性的な音が交錯します。

参考文献
スミス、ジョーン・アレン『新ウィーン楽派の人々:同時代者が語るシェーンベルク、ヴェーベルン、ベルク』、東京:音楽之友社、1995年。
テオドール・アドルノ『アルバン・ベルク:極微なる移行の巨匠 』、東京:法政大学出版局、2014年。
羽賀和敏「耳-言葉、音楽を語る言葉Th. W. Adorno:「アルバン・ベルク、室内協奏曲」を読む」、『北見工業大学研究報告』第32巻、2号(2001年)、87-110頁。

【公演情報】
Phidias Trio vol.5 "Connect the Dots"
2022年6月23日(木)19時開演 杉並公会堂小ホール

チケットお申し込み (peatix)

安良岡章夫: アリア・スコンポスタ II (2020)
安良岡章夫: 無伴奏ヴァイオリンのためのアリア (1992)
アルバン・ベルク: 室内協奏曲より 第2楽章 アダージョ (クラリネット三重奏版)
アントン・ウェーベルン: ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 op.7
トーマス・ヴァリー: Soliloquy (2012) 日本初演
ゲラルド・レッシュ: Sostenuto (2017) クラリネット三重奏版世界初演
ヨハネス・マリア・シュタウト: Bewegungen (1996)

出演
Phidias Trio(フィディアス・トリオ)
ヴァイオリン 松岡麻衣子
クラリネット 岩瀬龍太
ピアノ 川村恵里佳

主催:Phidias Trio
助成:公益財団法人東京歴史文化財団 アーツカウンシル東京
文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業


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