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【Phidias Trio vol.6】 演奏曲目紹介その2

いよいよ今週7月16日、Phidias Trio vol.6 "SOLOs ―ジャチント・シェルシの軌跡”を開催します。

今回は当日の演奏曲目から、ピアノソロとクラリネットソロの4曲をご紹介します。

Four Poems  for piano (1936 -1939) より No.1

 シェルシの創作初期にあたる時代に書かれた作品。この頃にはピアノ曲やピアノを含む室内楽曲が多く作曲されており、作風はアルバン・ベルクやアレクサンドル・スクリャービンの影響下にあった。今回演奏する第一曲は、幅広い音域を使った多層的な書法が見られ、特にスクリャービンの影響が強く感じられる。

Four Illusrations for piano (1953)

1950年代以降、シェルシの作品には東洋思想への傾倒が見られるようになる。この《4つの挿絵》は、“On the Metamorphosis of Vishnu”という副題がついており、ヒンドゥー教の神、ヴィシュヌ神の化身(アヴァターラ)が描かれている。全曲を通して、あえて響きを滲ませたり、濁らせたりするようなペダルの指示が随所にあり、その独特な色彩感や陰影が、鮮やかな表現を生み出している。

  1. Shesha ― Shayi Vishnu
     全体の序章のような楽章。DとG#の増4度の響きから始まり、その半音上・下など周辺の音が重ねられたりしながら、響きのゆらぎ、うねりの中で少しずつ音楽が動き出す。

  2. Varaha ― Avatara
     猪の姿をした化身、ヴァラーハが描かれた動的な楽章。ヴァラーハには、海の底に沈んだ大地を牙で持ち上げたという神話があり、深い低音の響き、パワフルな和音の強打がそのイメージを想起させる。

  3. Rama ― Avatara
     古代インドの叙事詩、「ラーマーヤナ」の主人公、ラーマが描かれる。非常に即興的な要素の強い楽章。

  4. Krishna ― Avatara
     数々の英雄譚が語り継がれるヒンドゥー教の神、クリシュナが描かれる。静かに、しかし強いエネルギーを内包するように始まり、ゆっくりとクライマックスに向かっていく。

Ixor  I  for clarinet (1956)

 シェルシは組曲の形式を持つ作品を多く作曲した。この《Ixor》も、他の組曲作品のようにまとまった形ではないが全部で4曲のシリーズ作品があり、1956年に《Ixor I》が作曲されたのち、長い時間を経て1986年に《Ixor II》~《Ixor IV》がBeate Zelinsky, David Smeyersのクラリネットデュオのために作曲された。しかし、シェルシの公式な作品リストには本日演奏する《Ixor I》のみが載せられている。
 この作品では、キークリック、微分音が数ヶ所譜面に書かれている。実際の効果としては少し曖昧なところがあるが、シェルシがこの時期から微分音を使用し始めた、ということは注目すべきである。

Preghiera Per Un' Ombra for clarinet (1954)

1940年代からシェルシは精神を病み、そこから回復したわずか2年後にこの作品は作曲された。タイトルは、“影のための祈り”と訳される。全体を通して、作曲家自身の精神的な苦しみや、悲痛な心情が読み取れる作品である。東洋的な香りのする旋律や、もがき苦しむような楽想が交錯し、複雑な音形やリズムにより音楽が進行する。最後は自分の影に向かって祈るように、静かに曲を閉じる。


公演詳細

Phidias Trio vol.6 "SOLOs ―ジャチント・シェルシの軌跡”

2022年7月16日(土) 15:00開演(14:30開場)
KMアートホール (東京都渋谷区幡ヶ谷1-23-20 京王新線幡ヶ谷駅より徒歩6分)

Program
ジャチント・シェルシ:
Divertimento No. 3 for violin (1955)
L'âme ailée for violin (1973)
L'âme ouverte for violin (1973)
Preghiera Per Un' Ombra for clarinet (1954)
Ixor for clarinet (1956)
Four Poems for piano (1936 -1939) より No.1
Four Illusrations for piano (1953)

出演
Phidias Trio (フィディアス・トリオ)
ヴァイオリン: 松岡麻衣子、クラリネット: 岩瀬龍太、ピアノ: 川村恵里佳

チケット
一般 3,000円 / 学生 2,000円 (当日券は各500円増し)
販売ページ → https://phidias-vol6.peatix.com/

お問合せ phidias.trio@gmail.com

主催: Phidias Trio
文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業


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