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虚血性心疾患治療における中薬の臨床パターン:集団ベースのコホート研究

はじめに
冠動脈性心疾患としても知られる虚血性心疾患(IHD)は、世界的に死亡と身体障害の主な原因となっています。世界的な統計によると、IHDの総患者数は2019年に1億8,200万人に達し、およそ900万人が死亡しました[1]。世界保健機関(WHO)は、2020年の世界的な疾病負担の第1位にIHDを挙げています。台湾の衛生福利部が2020年に発表した統計では、がん、心臓病、肺炎などの慢性疾患が死因のトップ3として挙げられています。心臓病は45歳以上の主な死因であり、心臓病による死亡者数は増加傾向にあります。

IHDの典型的な症状には胸部圧迫感や胸痛があり、その発症は突然(すなわち、以前に症状がなかった)です。IHDの治療は、適切な薬剤の選択と危険因子を改善することに重点が置かれます。危険因子には、高コレステロール、高血圧、糖尿病、腎機能低下、メタボリックシンドローム、肥満、食生活の偏り、運動不足、喫煙、ストレスなどが含まれます[2] 。重症の場合は、心臓カテーテル治療とステント留置が必要です。血管の閉塞があまりにもひどい場合には、冠動脈バイパス手術が行われることもあります [3] 。

IHDは古くから知られている疾患です。中薬(TCM)の専門家はIHDの治療において数千年の経験を持ち、中薬は顕著な臨床効果を有しています。伝統的な生薬や方剤の効果に関するエビデンスに基づいた研究は、高度な統計学的手法を用いて処方パターンを分析することから始まります。中薬による治療の多くは、血液循環を促進し、血瘀を最小限に抑えることを目的としています。これにより、狭心症の発症を抑え、心臓を保護します。

また薬理学的研究により、中薬に含まれる多くの有効成分が、心臓のリズムを安定させ、冠状動脈の血流を増加させ、動悸を抑えることが確認されています。最近の知見では、NF-κBとHIF-1αのシグナル伝達を阻害する「当帰苦参丸」の心筋治療効果 [4]や、MAPK、PI3K/ACT、PPARのシグナル伝達経路を相乗的に制御する「複方丹参滴丸」の虚血後心筋炎症改善効果 [5]など、IHDの治療に中薬が応用される可能性が指摘されています。

これまでのコホート研究では、2000年から2011年にかけての冠疾患の治療における中薬の使用について検討されています[6,7,8]。本研究では、台湾の人口ベースの国民健康保険研究データベースを用いて、2000年から2017年までの中薬の処方パターンを調査しました。検索は、IHDに特異的な診断コード:ICD9 410-414(ICD10:I20-I25)の下で、中医診所(クリニック)への受診回数と頻度を決定するために行いました。そして、IHDに対して頻繁に処方される中薬の方剤と、単味の生薬を順位付けしました。これらの結果は、IHD患者の臨床治療の貴重な参考となるでしょう。

エビデンス
「虚血性心疾患治療における中薬の臨床パターン:集団ベースのコホート研究」の要旨です。

【背景と目的】虚血性心疾患を緩和するために中薬が広く処方されているが、虚血性心疾患患者への使用に関するコホート研究は行われていない。本研究の目的は、虚血性心疾患患者に対する中薬の処方パターンを分析することである。

【材料と方法】この集団ベースのレトロスペクティブ研究では、中医診所を受診した4317人のコホートを無作為抽出した。データは2000年から2017年までの台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)から入手した。データ解析は、最もよく処方される方剤と単味の生薬の上位10に焦点を当てた。また、最も一般的な2剤・3剤の組み合わせについても検討した。人口統計学的特徴としては、年齢および性別の分布が含まれた。分析対象は22,441処方であった。

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