メトホルミンは上咽頭がん患者のがん特異的死亡率を減らしますか

はじめに
上咽頭がんは、東アジアおよび南アジアでよくみられるがんです 。一方台湾では、糖尿病人口が年々増加しています。IDF Diabetes Atlasによると、2021年には台湾の糖尿病患者数は2,450,000人と推定されています。また中国では20～79歳の1億4,000万人以上が糖尿病を患っていると報告されています。この2つの地域は、いずれも上咽頭がんが発生する主要な地域です。

これまでの研究で、糖尿病、上咽頭がん、メトホルミンの相互作用が議論されて来ました。Guoらは、糖尿病患者は上咽頭がんのリスクが低いものの、生存率にほとんど影響がないことを示しました。さらに、Zhangらは、メトホルミンががんリスクに影響を及ぼすことを示唆しました。メトホルミン使用者では、頭頸部がん、肺がん、肝臓がん、膵臓がん、大腸がん、膀胱がん、前立腺がんの頻度が減少することが報告されています。また、Tseng博士は、年齢、性別、腎症や肝疾患の有無などの要因に基づくサブグループ解析においても、メトホルミンの使用により上咽頭がんの発生率が減少することを明らかにしました。これらの声明は、メトホルミンががんを予防するというエビデンスを後押ししました。

これまでのところ、上咽頭癌の主な治療法は放射線療法と化学療法です。放射線療法と化学療法のレジメンは近年進歩しています。しかし、多くの患者は依然として局所再発や遠隔転移に苦しんでいます。したがって、上咽頭癌患者の治療成績を改善するために標準治療と併用できる薬剤を同定することはアンメットニーズです。

上述したように、がん患者におけるメトホルミンの有用性を確認した研究は数多くあります。臨床現場によっては、がん治療に対する反応を高めるためにメトホルミンがすでに処方されています。メトホルミンがin vivoやin vitro、あるいは観察研究において複数のがんを予防できることを示す証拠もあります。したがって、著者らは上咽頭がんにおける糖尿病治療薬の役割に興味を持ちました。

メトホルミンはII型糖尿病の第一選択薬です。この薬は数十年にわたって広く使用されており、現在でも糖尿病治療の主な選択肢となっています。II型糖尿病の発症機序は、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性に関連しています。肝臓に作用し、AMP活性化プロテインキナーゼ（AMPK）による糖新生と脂肪生成を阻害することでグルコースの生成を抑えます。また、筋肉や脂肪組織にも作用し、インスリン感受性を高め、血流へのグルコース取り込みを促進します。

スルホニル尿素やグリニドなどのインスリン分泌促進薬は、膵臓β細胞のスルホニル尿素受容体に結合し、インスリン分泌を刺激します。α-グルコシダーゼ阻害薬は、近位小腸に作用して複合糖質から単糖やグルコースへの分解を抑制します。チアゾリジン薬はPPAR-γを活性化し、筋肉、脂肪組織、肝臓のインスリン感受性を促進します。DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬はインクレチン濃度を上昇させ、インスリン分泌を刺激し、グルカゴン産生を低下させます。SGLT2阻害薬は、近位尿細管からのグルコースの再吸収を阻害し、尿中へのグルコースの排泄を促進します。

台湾で行われた以前の研究で示されたように、メトホルミンは糖尿病患者の上咽頭がんのリスクを減少させるのに有効です。いくつかの基礎研究では、メトホルミンが上咽頭がん細胞の成長と増殖を抑制し、シスプラチンの薬剤耐性を逆転させ、細胞を放射線感受性にすることも示されています。Shiはまた、メトホルミンが上咽頭がん細胞のアポトーシスを促進することも報告しました。時間および濃度依存的に、メトホルミンは単独で上咽頭がん細胞株であるCNE1細胞の活性を有意に阻害しました。さらに、シスプラチンとメトホルミンの併用は、上咽頭がん細胞の活性、遊走、浸潤をより強く阻害しました。

その結果として、メトホルミンが上咽頭癌患者の癌特異的死亡率を低下させるかどうかを知りたいと著者らは考えています。文献検索の結果、この問題を調査した研究は見つかりませんでした。著者らは、台湾の全国集団ベースコホートを用いて、この重要なテーマに関する実際のエビデンスを収集することを目指しています。

エビデンス
邦題は「上咽頭がん患者におけるメトホルミンと癌特異的死亡率との関連： 実際のエビデンス」です。