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第8話 帰り道

通行止め解除のアナウンスと同時に、止まっていた列がゆっくりと動き出す。とはいえ橋の入り口さえ見えないので、駅までの道のりは果てしない。

ブルーシートに座っていたときからはだいぶ小さくなった花火を時々振り返りながら進んでいく。

浴衣を着たカップルや子ども連れ、友達同士。それぞれが楽しそうに会話を交わしながら歩くなか、私は一人黙々と駅に向かって歩いていた。

ようやく橋が見えてきた頃、花火大会はフィナーレを迎えたようだ。連続する打ち上げ音とともに、足元が一瞬明るくなる。橋を歩いていた誰もが一瞬足を止め、光の方向を見上げる。

夜空を明るく照らした花火は瞬く間に消え、あたりには人の声だけが残る。今年の夏はまだ始まったばかりだが、夏の終わりのような切なさが通り過ぎてゆく。

会場に拍手が響き渡り、3年ぶりの長岡花火大会は幕を閉じた。

長岡駅にたどり着くころには、団体席を離れてから1時間が経過していた。駅のホームには人があふれ返っている。

電波の通じないiPhoneを取り出し、彼と家族に花火の写真と動画を送信する。電波が通るまで送信されないのはわかっていても、体中を駆けめぐる感動を抑えられなかった。

ホームに電車が入り、流れるように人が車内に入り込んでいく。本当にラッキーなことに端の席が空いていて、私は崩れるように腰を下ろした。

一気に疲労感に襲われる。浴衣に下駄を履いていた女の子たちの疲労は、きっと私の想像を超えるだろう。

気づくと眠っていたようで、車内の人はまばらになっていた。乗り換えがないのは楽だが、1時間半の道のりはなかなかに遠い。

ホテルに着いたころには日付を回っていた。最後の力を振り絞ってシャワーを浴び、気絶するようにベッドに倒れ込んだ。

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