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第6話 空いっぱいの花火

「すごい……!!」

ブルーシートに体育座りをしている私たちの真上で、巨大な花火が打ち上がる。視界に収まりきらないほどの大きな大きな花火と、轟く打ち上げ音。

あたりの迫力に言葉が出てこない。テレビやYouTubeで花火大会の映像を観ていたとしても、心臓が震えるような感覚や、空気の振動は会場でしか感じられないだろう。

何より、首を回さなければ全貌が見えないほどの巨大な花火は、打ち上げ場所から近くなければ体験できない。

五感で花火を味わい尽くしたい気持ちと、感動をカメラに収めたい気持ちがせめぎ合う。

実家にいる両親や、鹿児島にいる彼にもこの感動を共有したい。そんな思いがむくむくと湧いてきて、私は半年前に買ったiPhone12 miniを構えた。

隣では友人が、本格的なカメラで撮影している。旅暮らしを始める前にカメラを買うか迷ってやめたので、ちょっぴり羨ましい。

「この花火は、地元の小学生が考えてくれたデザインを実際の作品にしたものです!」

長岡花火は、一つひとつの作品に解説のアナウンスがある。コロナがまん延し始めて約3年。

当時デザインを考案した小学生は、今何年生になっているのだろう。自分が考えた花火が夜空いっぱいに打ち上げられているのを見て、どんな気持ちでいるのだろうか。

花火師さんだって、今年こそ開催されてほしいと願いながら、毎年花火玉を作っていたはずだ。

3年ぶりの開催でようやく花開いた作品たち。打ち上げ場所から見る景色は、きっと言葉では言い表せないくらい素敵なものなのだろう。

運営のスタッフさんも、何度も続く開催中止に悔しい思いをたくさんしてきたことだろう。誰のせいにすることもできない理由で、消化しきれないもやもやした気持ちもあったはずだ。

一発一発の花火からたくさんの人の思いが伝わってくるようで、胸がいっぱいになる。気づくと私は花火を見ながら涙を流していた。

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