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油水分配係数で「logP=3.8」と書いてある・・・これは脂溶性?水溶性?

 医薬品のインタビューフォームの、物理化学的性質の項の「(油水)分配係数」のところには通常、173とか0.002とか数字が書かれている(一般的にはpHと共に)。
 ところが稀に、「logP=○○」と表記されていることがある。
 例えば「logP=3.8」と書いてあったらどう解釈すればいい?・・・脂溶性?水溶性?そこんとこを復習していこうと思う。

 まずは高校の数Ⅱで学んだlogの基礎知識から。
 よく用いられるのは、以下のような例。

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 ここで 3 のことを「指数」という。
 では 2 は?・・・「(てい)」という(8 は「真数」と呼ばれているが、覚えなくていいかも)。
 ちなみにlog表記のことを「対数」という。
 つまり「log」ってのは、指数を表す時に用いる方法。
 日常では、油水分配係数や薬物動態でちょこっと出てくるくらいでしかお目にかかることはないが、知らないとインタビューフォーム等に書かれている内容が理解できないことがある。

 さて、これを踏まえて上述で例に出した「logP=3.8」の解読に挑む!
 小数点があるとちょっと分かりにくいので、「logP=4」でやってみる。

 その前に一つ。「log」と「P」の間に数字がないことが分かる。「底」がない!
 これは底が省略されているから。
 ここで省略さていれる底は「10」。
 底が10の対数を「常用対数」という。
 つまり、logP=4は、

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 ということになり、「10の4乗」を意味している。
 つーことは、医薬品の分配係数で「logP=4」と書いてあったら、10の4乗・・・つまり10,000を意味し、非常に脂溶性が高いということ。
 ちなみに「10の3.8乗」は、電卓やエクセルで計算してみればわかるが、約6,300になる。

 ここで、「P」はPertittion(分配・分離)の頭文字。透過を意味するpremeabilityのPとする説もある。
 また分配係数では「K」が用いられることもよくある(logK)。
 土壌中での放射性物質の移動、クロマトグラフィーでの固定相・移動相間の分配など、固-液系表す場合はK、生体内での物質挙動など、液-液系を対象とする場合はPを用いるようだ(Wikipedia、https://www.jstage.jst.go.jp/article/membrane/35/5/35_224/_pdf/-char/en より)。
 なぜ「K」の文字が用いられるのかは見つけられなかったが、この「K」は通常、「平衡定数」の意味で使われている。油水分配が平衡になっていると考えるから。酸塩基解離定数も酸と塩基で平衡になっていると考えて、「K」を用いてpKaと表記する。
 ただし、「平衡」は英語でEquilibrium。ドイツ語で平衡はGleichgewichtなので、「K」の語源はやはり不明。

 さらに、油水分配係数では“logD”という表記もたまに見かける。
 これは“電離”を考慮してlogPにpHやpKaの概念まで加味したもので、「logP=logD+log(1+10(pKa-pH))」という関係式が成り立つらしい。
 ちなみに「D」はdistribution(分散・分布)の頭文字で、「P」とは意味のニュアンスが少し異なるみたい。

 さて、底を省略する対数がもう一つある。
 底を「e」で表す「自然対数」と呼ばれているもの(なぜ自然対数というか・・・「数学において自然に生じ、よく見かける」という根拠らしい。詳細はネットで検索を。)。
 底を省略すると、常用対数と見た目が同じになってしまうため、その混同を避けるために通常は「ln(ロン)」で表記する。

 余談だが、この「e」は「ネイピア数」と呼ばれており、e=2.71828...と理解されている。
 このネイピア数は実は、実際の社会における自然現象や経済活動等の表現や分析の中で使用されているらしい。
 最も有名なのが、銀行での「連続複利の元利合計」というやつ。連続複利の元利合計は無限に増大していくのではなく、e という値に収束していくというもの。
 その他には、「1/nの確率で当たるくじ」や「2つのトランプのカードが一致する確率」などでeが関与してるらしい。
 そして、薬の世界で「e」が関与してるのが、「半減期」

 「ka × t1/2= ln2」という式がある。消失速度定数(ka)と血中半減期(t1/2)の積がln2(loge2)になるというもの。自然の摂理にやはりネイピア数は関与してるということか。

 ちなみに、kaは時と場合に応じて、消失速度定数や、吸収速度定数、反応速度定数などの解釈が異なる。半減期も、血中だけでなく吸収過程の半減期もある。「ka × t1/2 = ln2」の式の使い方などと合わせて、後日別稿で記す。

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仕事より趣味を重視しがちな薬局薬剤師です。薬物動態学や製剤学など薬剤師ならではの視点を如何にして医療現場で生かすか、薬剤師という職業の利用価値をどう社会に周知できるかを模索してます。日経DIクイズへの投稿や、「鹿児島腎と薬剤研究会」等で活動しています。