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トラネキサム酸の作用機序を復習~どうやって腫れを鎮めたり止血する?~

 トラネキサム酸の主な作用は、①止血、②鎮腫、③シミ対策の3つ。
 いずれも、抗プラスミン作用 が関与している。
 まずはプラスミンの作用を3つに分けて復習。

血栓溶解・出血傾向

 プラスミンがフィブリンを分解することで、線溶系を亢進する。

炎症・アレルギーを引きおこす

 プラスミンが各種たんぱく質を分解する過程で、キニンやヒスタミンなどのサイトカインを産生し、腫れ・炎症・アレルギーの発現に関与している。
・ブラジキニンは血管の透過性を増すので、浮腫を起こす。
・ヒスタミンはアレルギー症状や炎症のきっかけになる)。

シミの原因になる

 プラスミンの活性化に伴って、メラノサイト(メラニン産生細胞)が活性化し、シミの原因となる。

 トラネキサム酸は抗プラスミン作用があるので、止血・消炎・抗アレルギー・抗シミ作用が期待できる。
 なので、臨床ではそのまま止血が必要な時や、風邪をひいて喉の炎症を止めたい時、皮膚科ではビタミンCと併用してシミ対策目的で処方されたりする。
 また、外科手術などで体に侵襲を加えた後の浮腫などの生体反応を抑えるために処方される事もある(例:乳癌術後のリンパ浮腫など)。

フィブリン分解の分子レベル作用機序とトラネキサム酸の作用


 プラスミノーゲンには、構造中の4か所にリジン部位があり、そこにフィブリンが吸着して複合体を形成する。
 そこにプラスミノーゲンアクチベーター(ウロキナーゼ・t-PA・ストレプトキナーゼなど)が近づいてきて、プラスミノーゲンのArg561-Val562間のペプチド結合を限定分解する。
 これによってプラスミノーゲンがプラスミンとなり、フィブリン分解が起こる。
 参考:https://www.jsth.org/glossary_detail/?id=182
  ちなみに、プラスミノーゲンは791のアミノ酸からなる平均分子量92,000の糖タンパク。血中t1/2は2.2day、血漿中濃度は約1.2~2.0μM。

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 トラネキサム酸はリジンに似た構造のため、プラスミノーゲンのリジン部位の代わりにフィブリンに結合する事で、止血作用を示す。
 鎮腫・消炎・抗アレルギーに関する作用でも “プラスミノーゲンのリジン部位と他タンパクとの結合” を阻害する事で、タンパク分解を抑制し、各種作用を示すものと思われる。

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仕事より趣味を重視しがちな薬局薬剤師です。薬物動態学や製剤学など薬剤師ならではの視点を如何にして医療現場で生かすか、薬剤師という職業の利用価値をどう社会に周知できるかを模索してます。日経DIクイズへの投稿や、「鹿児島腎と薬剤研究会」等で活動しています。