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[個人史]青春とミステリ
『人生の土台となる読書』のために書いたけれど、ページの都合で収録できなかった原稿です。
今はあまり読まなくなったのだけど、二十歳前後の頃はよくミステリを読んでいた。
あの頃はなぜあんなにミステリを読んでいたのだろうか。それは、若くて人生に迷っていたからかもしれない。
最初のきっかけは、たまたま綾辻行人の『時計館の殺人』を読んだことだったと思う。予想もつかない真相にすごくびっくりさせられてしまった。そこでミステリの面白さを知った僕は、綾辻行人の他の作品も読み、そこからさらに手を伸ばして「新本格」と呼ばれる他のミステリ作家たちもいろいろ読むようになった。どの作家もとても面白かった。
新本格の次に衝撃を受けたのは京極夏彦だった。最初に読んだのは一作目の『姑獲鳥の夏』ではなく二作目の『魍魎の匣』だったのだけど、これがめちゃくちゃに面白くて、そこから京極作品を読み漁っていくことになる。
京極夏彦の小説は、ミステリとしての面白さも抜群でありつつ、キャラクターたちも魅力的で、さらに古今東西の該博な知識が引用されて勉強にもなる。文章も上手いし、作者の風貌もミステリアスで面白い。全てが完璧だった。京極夏彦の本は作を重ねるにつれて鈍器のようにどんどん分厚くなっていったのだけど、その分厚さも全く気にならず、何度も徹夜をして読みふけった。
そして、京極夏彦という巨大な才能が突然原稿の持ち込みをしてきたことに触発されて創設された、メフィスト賞にも夢中になった。森博嗣や清涼院流水のような尖った才能の持ち主が次々と現れるメフィスト賞は本当に楽しくて、初期の受賞作は大体全部読んでいた。
しかし、大学を卒業して年をとっていくにつれて、だんだんとミステリを読まなくなっていってしまった。
今思うとそれは、自分の社会の中での生きづらさが減っていくのと反比例していたのかも、と思う。
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