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[cakes]猫になりたいとは思わない

cakesに載せていたものを転載したものです。猫の話。末尾にちょっとだけ追記をしています。


(2013年8月20日)

大体毎日朝は、猫がベッドに飛び乗ってくる軽い衝撃で目が覚めて、そのあと猫が「ニャーン、ニャーン、ニャーン」(寝てないで構って構ってよ)って鳴きながら寝ている自分の周りをうろうろ歩き回ったり、こちらの手に頭を擦り付けてきたり、ときには「ゴロニャーン」(ねーねー起きてよ)とか鳴きながら寝ている僕の体の上に飛び乗ってくるのを、「はいはい仕方ないな……」と思いながら半分眠ったままの意識で頭を撫でてやったりする感じで目を覚ます。

スンスン(右)とタマ(左)

猫は全2匹飼っていて、右の白いのがスンスン(6歳・メス)で、毎朝ベッドに飛び乗って来る。左の黒いのはタマ(6歳・オス)という。スンスンとは姉弟の関係に当たる。

タマは寝てる僕に迫ってくるほどの強引さはないものの、スンスンに劣らず甘えん坊なのには変わりなく、こちらが何か作業などをしているときに邪魔をしてくるのはタマのほうが多い。人間があぐらをかいて座っているとその組んだ足の上で丸まって眠るのを好む。僕が椅子に座っているだけで、下から見上げながら何か訴えかけるように「ニャーニャーニャーニャー」と鳴き続ける。最初はこれは何を訴えているのかよくわからず「お腹空いてるのかな」とか思っていたのだけど、これは「椅子に座っているとこっちが甘えにくいから床に座れ」ということだというのが長年の付き合いで分かってきた。人間は猫が座るための座布団扱いということだ。仕方ないので床に座る。

タマは一旦あぐらの上に陣取ると、目を細くしながら体を丸めて、鼻息をフシューフシューと荒く吐き出しつつ、エンジン音のようにゴロゴロゴロゴロと大音量で喉を鳴らして全力で甘えて続ける。喉の下などを撫でてやるとよだれを垂らしそうなゆるんだ至福の表情を浮かべる。このポジションを取られてしまうともう猫側の言いなりで、こちらはひたすら撫で続けるしかない。人間としても猫に触るのは肌触りがよくて気持ちいいんだけど、脚の上に居座られてしまうと動けないので不便だし、そのうち脚が痺れてきてしまう。

タマもスンスンも人間がやっていることの邪魔をしてくるのが好きで、パソコンを開いているとモニターの角に頬を擦りつけてきたり、キーボードを打っているとキーボードを半分塞ぐようなポジションで丸まって寝だしたりする。くそ、邪魔だ。仕事にならない(大体は仕事してるわけじゃなくだらだらインターネットしているだけなんだけど)。あとボードゲームなどをする際も、猫の突然の乱入で駒やカードが無茶苦茶に乱されるのを常に警戒していないといけない。

あー、猫いいなー。猫になりたい。猫みたいに床でひたすら寝そべって寝たり、後ろ足で耳の後ろのかゆいところをバリバリ掻いたり、座布団をバリバリ引っかいて爪を研いだり、毎日同じキャットフードをカリカリ食べたり、うんこしてそれを砂に埋めたり、ひたすら人間のやることの邪魔をし続けたりしたい。

犬にはそんなになりたくない。いや、あいつもいいやつだとは思うけど、なんか主人との密接な関係みたいなのがありそうでめんどくさい。走り回ったり運動が好きそうだし、動くのはちょっとだるい。猫はなんか、人間には甘えてくるけど忠実って感じではなく好き勝手にふるまってるし、毎日寝てばかりいるくせになんか超然としたような表情してる、そんなところがいい。

犬と猫の違いについてはネットで見かけたこのコピペが好きだ。

地震のとき
犬は「ヤベっすねどうしたらいいすかね指示くださいよ」みたいな顔で見てくる
猫は「お前が揺らしてるんだろ?全く面白くないから今すぐやめろ」みたいな顔で見てくる

地震が来ると本当にこんな感じなのでうける。

しかし、もしどこかの大金持ちが「猫と同じような感じで飼ってやるからうちに来い」と言ってきたらと考えると、結構迷う。

安楽に好き勝手に過ごせる広さの家に住むことができて、自由に遊べるおもちゃ(ゲーム機とか)を与えられて、単調だけどそんなに不味くないご飯を与えられたとする。最初はいいけど一週間くらいで逃げ出したくなる気がする。やっぱり人間というのは退屈というものに耐えられなくて、何か新しいことを始めたり、よく知らないところに出て行ったりするような自由さを持っていないといけないのかもしれない。

でも、それは僕がまだある程度若くて枯れ切ってないからかもしれない。もっと老人になったら、毎日同じものを食べて同じルートを散歩して、NHKを見て風呂に入って体操でもして、同じ境遇の仲間と囲碁でも打っていたらそれで毎日を満足して過ごすかもしれない。それは猫の生活と似たようなものだと思う。

実際に猫だって、子猫のうちは好奇心が旺盛でいろんな場所に入りたがったり知らないものに興味を示したりするが、ある程度大人になると好奇心も行動力もなくなってきて、目の前で猫じゃらしをヒラヒラさせても一瞥もくれないようになり、ひたすら日なたでゴロゴロしているだけの生き物になる。「好奇心は猫を殺す」という諺の対偶を取ると「長生きしている猫は好奇心が少ない」だ。

しかし猫と老人には大きな違いが一つあって、それは「猫は年をとってもかわいいけど人間の老人はあまりかわいくない」ということだ。人間の老人をペットとして飼いたい人はあまりいないだろうと思う。人間も若いうちはまだかわいげがあるけれど、人間の若者も猫と同じように行動力とか好奇心が旺盛で、じっと安定した環境で飼われることを好まない。快適な環境が用意されていてもわざわざそこから飛び出して行ってしまったりする。なかなかうまくいかないものだと思う。




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