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[cakes]シェアハウスとセックスと家族

cakesが閉鎖するので記事を移転します。9年前、シェアハウスに住んでたときの話です。性的な話題が出てくるので苦手な人はご注意を。

(2013年2月8日)


趣味や話題が合うギークが集まって共同生活をしたら楽しいんじゃないかと思って、2008年頃からギークハウスという名前のシェアハウスを始めた。今ではいろんな人によって関東を中心に全国に20軒くらいのギークハウスが運営されているんだけど、僕が最初の発案者ということでよく相談を受けたり取材を受けたりする。そこでシェアハウスに住んでいるとよく聞かれる質問ナンバーワンは「みんなオナニーとかどうしてんの?」だ。
シェアハウスといっても寝る部屋は個室になっているタイプと、相部屋(ドミトリー)のタイプの二種類がある。僕はシェアハウスの個室に住んでいるが、個室だったらドアを閉めきっていれば、よっぽど奇声を上げたりしない限り特に問題なく用を済ませることができる。
じゃあ寝る部屋が相部屋の人はどうしてるのかという話で、別に知りたくもないので普段は聞かないんだけど、せっかくなので知り合いに訊ねてみると、「人がいない隙にこっそり」「近くの個室ビデオに行きます」「彼女の家で彼女がいないときに」「近所のセ◯ンイレ◯ンのトイレでします。うちの近所にはコンビニが複数軒あるけどセ◯ンのトイレが一番快適ですね。あそこ住めそうなくらい広いですし」などの回答が返ってきた。みんなそれぞれ工夫をしているようだ。

オナニーはまあいいとしてセックスはどうしてるのかというと、シェアハウスを出る理由として「恋人ができたから」というのはときどき聞く話だ。
僕は昔大学の寮に住んでいて、そのときのだらだらした暮らしが居心地が良かったので今もシェアハウスをやっているようなものなんだけど、僕がその寮を出たきっかけも付き合っている女の子ができて、人目をはばからずにイチャイチャできる場所が欲しい、という理由だった。
だけどそのときの僕は、個室も欲しいんだけど、友達が集まるたまり場としての寮から離れるのもすごく寂しくて、結局その時借りた部屋は寮の3軒隣にある安いワンルームマンションだった。そこで昼間は寮に行って友達と遊んで、夜は自分の個室に帰って寝る、という生活をしばらくしていたけれど、あれはなかなか良い生活だった。
東京でも、シェアハウスを出たあとにその近所に住んで自分が元いたシェアハウスにしょっちゅう遊びに来ているという人の話はときどき聞く。結局多くの人がシェアハウスに求めているのはいろんな人が集まって団欒する「リビング」とか「たまり場」とかいった機能なので、個人の部屋は別に確保しつつ近所のシェアハウスに遊びに行くというのはなかなか良い利用方法なんじゃないかと思う。人間が家に必要とするものを一軒の家の中で完結させる必要はないわけで、町全体を一軒の家のように考えて複数軒の家を利用するという流れはこれから増えてくるだろう。
シェアハウスについて語るときにオナニーやセックスがよく話題になるのは、それがシェアに馴染まない、シェア的な空間と両立しにくいものだからだけど、逆に言うと、結局そういう性に関することくらいしかシェアできない事柄って存在しないんじゃないの、って拍子抜けしたようにも感じる。それだったらそんなにみんな別々に住む意味ないんじゃないのか。ワンルームマンションとかにカネのない若者がみんな個別に住んでるのはオーバースペックなんじゃないか。若い男子がワンルームとかに住みたがるのはホテル代要らずにいつでもセックスやりまくりみたいなどうでもいいことを夢想しているのがほとんどだけど、実際大人になってみると、みんなそんなに四六時中セックスしているわけでもないよなあと思う。
一般的に「家族」というものは性的関係をもとにして始まるけれど、年を経るにつれだんだんセックスから離れていくものだ。「家族で一つの家に暮らす」か「一人暮らしをする」というのが今まではポピュラーな住み方だったけど、そんなにセックスのことを考えなくて良いとすれば、友人同士のシェアハウスみたいないろんなタイプの「家」が普通に選択肢として上がってくるんじゃないだろうか。

シェアハウスみたいなたまり場とかコミュニティ作りをやっていて思うのは、いわゆる一般的な「恋愛」とか「結婚」とか「家族」とかってチートだよなあ、ということだ。恋愛とか性欲とか、そういう人間の判断力を低下させて行動力を上げるネイティブなパワーで人間をブーストさせて、その力でなし崩し的に男女がくっついたらその関係性はそれなりに社会的にも認められて褒められて、成立したペアの間には嫉妬心という天然の囲い込み機能も付いていて、さらには新たに人間を産むという個体の増殖機能までそなわっていて、血縁とか遺伝とかいうそれなりに物理的実体と文化的背景を持つ幻想の力でコミュニティへの一体感や思い入れも簡単に発生させられる。そのシステムは強力すぎるしずるいよなあ。まあそれくらい分かりやすくて強力じゃないと、人類はこんなに殖えなかったから仕方ないんだけど。
個人的なことを言うと、小さい頃から家族というものが苦手だった。別に何か派手な問題があったわけではないけれど、家族とはあんまり意見も性格も合わなかったし、あんまり意見も性格も合わない人たちと同じ閉鎖的空間で一日の多くの行動を共にしないといけない理由も分からなかった。ずっと、自分の好きな時間に起きて、自分の好きなものを毎日食べて、自分の好きな時間に周りを気にせず家を出たり入ったりしたかった。
だから大学時代に実家を出て寮に住んだことや、そのあとに一人暮らしをしたときには物凄く解放感を感じた。一人暮らしをしたときはこれで誰に気兼ねもなく女の子をいくら部屋に呼べる! とテンションが上がった。まあそのとき付き合っていた女の子ともしばらくすると別れて、自分がそんなに異性と付き合うのが得意でないということを思い知るんだけど。
結局一人暮らしは何年かやったけれど、これは寂しいし退屈だしそんなに楽しくないと思うようになってきて、昔住んでいた大学の寮のように友達が集まってひたすらだらだら遊べるようなたまり場が欲しくなって、29歳のときにギークハウスというインターネットやパソコン好きの人が集まるシェアハウスを作って、34歳の今もそのギークハウスに住んでいる。
「一人暮らしが寂しい」という理由で恋人を作ろうとか同棲したいとか結婚したいとかいう方向に行く人も多いけど、僕はそちらにはあまり興味が湧かなかった。まあそれは全く個人的な理由で、女の子と付き合ってもいつもあまりうまくいかないな……と諦め気味なせいだけど。たまに会ったりする分には楽しいけど頻繁に電話したりメールしたりするのは苦手だし、ましてや一緒に住んだりしたらすぐにしんどくなってしまいそうだとしか思えない。自分は学校も会社も苦手だったし、他人と一緒にやっていく協調性が欠けているんじゃないかと思う。
そんな他人と話し続けたり密接に関わり続けたりするのは苦痛な自分が、それでも何とか完全な孤独にならずにいられる居場所を作るためのギリギリの試みがシェアハウスだった。シェアハウスだったら基本的には自分の部屋で一人でいて、気が向いたときだけリビングに行って人と話したり遊んだりする、という住み方ができる。いろんな住居やコミュニティを試してみたけど、僕にはここしか行く場所がなかった。結婚や家族に対する憧れなどもないし、僕はしばらくこのままシェアハウスに住み続けるんだろう。まあ先のことはどうなるか分からないけど。

最近シェアハウスが流行りでどんどん増えているけれど、今シェアハウスに住んでる人は若い人が多い。僕は今34歳だが、今の同居人は全員20代だ。僕はもう5年くらいシェアハウスの管理人的なことをしながら、若い人が入居したり退去したりする様子を生暖かい目でじっと見守っている。
でもシェアハウスで困るのがセックスくらいだとしたら、男は30くらいから性欲もだんだん減ってくるし、意外とおっさんのシェアハウスはありなんじゃないか。今シェアハウスに住んでる20代の人が30代になるくらいの5年後や10年後は、そういうシェアハウスが増えてきているんじゃないだろうか。
また、老人のシェアハウスというのもありだと思っている。結婚して子供を作って育てて独り立ちしたあと、配偶者と離婚したり死別したりして一人になった老人は結構いる。そういうときに子供と一緒に住むのもいいけれど、それも気を遣うから同世代の友人と一緒に住んだほうが楽だ、というニーズはあると思うのだ。老人はセックスもあまりしない(?)し、大音量でギターをかき鳴らしたりとかも多分あまりしないので、シェアに向いてそうだし。子供の世代としても、老人になった親が独居してるよりは誰かと住んでるほうが安心だろうし。
そうすると、20代から30代の若者のシェアハウスと、60代以降の老人のシェアハウス、その間を埋める40代、50代のおっちゃんやおばちゃんが住むシェアハウスというのは可能なのかが気になるところだ。そういう若くもないが枯れ切ってもない中途半端な年代の人間が家族でもないのに集まって住むというのは成立するのか? それはなんか気持ち悪くならないか? それは僕自身がこれから10年とか20年くらいかけて自分の体で試していくことなんだろうと思っている。


購読者向けに今の視点からの追記を書いておきます。

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