『最後のジェダイ』のルーク像が最低最悪だけど ちょっと好き

『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』の話です。

『スター・ウォーズ』の歴史上最も物議を醸した問題作『最後のジェダイ』。監督であるライアン・ジョンソンのスター・ウォーズ観が如実に反映された作品であり、『エピソード1』を越える論争を巻き起こしました。

中でもルーク・スカイウォーカーの設定には大きな批判が集まりました。あのルークが、弟子を手にかけようとし、希望を失い、世界の危機から目を背けようになるなど誰が想像したでしょう。

しかし、このルーク像は悪いものだと一蹴するのは早計です。主人公の座を降りて、過去から未来への世代交代の立場に立ったルークについて考えてみます。

ルークとはどんな人間なのか

多くの人が語る「こんなのルークじゃない」という話。演者のマーク・ハミルですら、ライアン監督の描くルークは理解できない、という旨の発言をしていました。

では私たちはルークの何を知っているのでしょう。

私たち達が目にしているルークは、『新たなる希望』から『ジェダイの帰還』までのわずか数年。それもティーンエイジャーから大人になろうとする、若く希望に溢れる青年期の彼の姿です。

その後についてはスピンオフで語られてきましたが、それらは軒並み「レジェンド」という括りになり、実質闇に葬られたと考えても良いでしょう。

「カノン」に属するルークは、私たちにわずか数年しか姿を見せてくれていません。たった数年を知っただけで、彼のことを全て理解できるはずが無いでしょう。

光輝く希望に溢れる20代の若者が、30年後に卑屈な落ちぶれた男になっていたという結末は、現実世界でもありえることです。ルークがあのように変わってしまったことは、不自然なことでは無いのです。10歳のあの心優しいアナキンが、やがてダースベイダーになるのですから、世の中なんだってあり得るでしょう。

とは言え、ファンの心理としては受け入れがたいのも事実。そもそもルークは我々に希望をもたらす存在であるべきで、彼に勇気づけてほしいからこそ私たちは劇場へ足を運んだわけです。

彼の没落した姿を見せて、ファンを落胆させる必要が本当にあったのでしょうか。ライアン監督の目的は、あのような悲しいルークの姿を描いて、私たちをガッカリさせることだったとしか思えません。

監督がルークに果たして欲しかった役割はなんだったのでしょうか。

弟子を手にかけるという 最低最悪の汚れ役

『最後のジェダイ』でルークに与えられた仕事は、大切な弟子を手にかけようとする、という最低最悪の汚れ役でした。

これにはファンも大激怒。あのルークが、あろうことかハンとレイアの息子を殺そうとするなんて、とてもじゃないけど考えられません。

「お前らが考えてるほど、ルークは高尚な人間じゃないぞ。目を覚ませ」と監督から言われているような気がしました。

しかしこの展開がベン・ソロの物語に深みを与えたことは事実。ただの暗黒面に落ちた男ではなく、師に見放されたことで悪の道に進まざるを得なくなった悲しい男となり、これまでのスターウォーズに無い悪役像を確立しました。

次の世代を際立たせるために、ルークを犠牲にしたのです。非情な決断ですが、確かに効果的ではあります。
 
ライアン監督は、昔の世代のキャラクターをひたすら礼賛するような物語ではなく、次の世代のための糧になってもらう物語を作りたかったのでしょう。

その意図はよくわかります。

ルークがベンに刃を向ける場面は良い意味で映画史に残ることは無いでしょう。しかし、私はこの場面が嫌いではありません。

弟子を殺すという苦渋の決断をし、ライトセーバーを抜くルーク。ふと我に返ったように手元を見て、それからベンの方を見ると、怯えた表情(アダムドライバー迫真の表情です!)の彼と目が合います。そして再度、自分を奮い立たせるように表情を変え、剣を振り下ろし、後悔だけが残ることなるのです。

この一連のルークの表情の移り変わりは、彼の回想のセリフとともに、強く私の胸に刺さりました。今でもこの場面を見返すたび、様々な感情が入り混じって震えるような感覚を覚えるものです。

よくも悪くもこのシーンは、私にとってシークエルで最も印象深く、嫌いにはなれない部分なのです。

ライアン監督も ちゃんとスターウォーズを愛してる気がする

『最後のジェダイ』を見ていると、まず撮りたい画があって、そこにストーリーをなんとかくっつけたように見えます。

印象深い場面は多数。レイとベンがスノークの部屋でガードと戦うシーンのカッコよさは抜群ですし、クレイトでルークが1人敵の方へ歩くところは何度見ても正直感動を覚えます。

ストーリーにいろいろ問題があるものの、痺れるようなシーンを作ることのできる人だという意味で、やっぱりライアン監督も悪くないなと思う今日この頃です。