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ピラミッドフィルム クアドラの新しいパーパスとバリューができるまで

2022年で設立15周年の節目を迎えるピラミッドフィルム クアドラ(以下:クアドラ)は、「THIS IS QUADRA PROJECT」と銘打って、パーパスとバリューを新たに制定しました。
今回は、このパーパスとバリューがどのような過程を経て誕生したのかをプロジェクトに携わった代表取締役社長の篠原哲也、陣頭指揮を執ったクリエイティブディレクターの阿部達也、そして外部パートナーとして協力を仰いだmeet&meetの小藥元さんの3名に伺います。

左上:小藥元さん、右上:篠原哲也、下:阿部達也

篠原哲也(しのはらてつや)
代表取締役社長
1993年ANAでジェットエンジンのエンジニアを4年経験後、1997年ピラミッドフィルムにてデジタル制作部の立上げに参加。CD−ROMからインターネット黎明期を経験し、企業のプロモーションサイトやISPでネットサービスの企画・制作・運営を担当する。2002年 ソニーにてデジタルデバイス(VAIO等)の情報配信サービス企画・営業であるビジネスプロデューサーを担当。2007年ピラミッドフィルム クアドラの設立に参加し、プロデューサーとして従事。2010年取締役副社長、2019年代表取締役社長に就任。

阿部達也(あべたつや)
クリエイティブディレクター  / ディレクションチームマネージャー
1988年大阪生まれ。栃木・岐阜・長崎・大阪と転勤を重ね、2011年より上海で就職。デジタルを活用した課題解決や価値創造におけるプランニングとディレクションを手掛ける。2016年に帰国し、現在は東京を拠点に活動中。

小藥元さん(こぐすりげん)
meet&meet コピーライター / クリエイティブディレクター
1983年1月1日生。早大卒業後、05年博報堂入社。14年meet&meet設立。主なコピーワークに、中小企業からニッポンを元気にプロジェクト「変わろう。変えよう。挑戦で。」カゴメ「よろこびを、一から土から。」NHKおかえりモネ「晴れ、雨、進め。」池袋PARCO「変わってねえし、変わったよ。」マイケルジャクソン遺品展「星になっても、月を歩くだろう。」ネーミング開発に「瀬戸SOLAN小学校」PARCO「パルコヤ」大型サウナ宿泊施設「かるまる」モスバーガー×ミスタードーナツ「MOSDO!」コメダ珈琲店「ジェリコ」などがある。


会社の方針を示す羅針盤がほしかった

━━THIS IS QUADRA PROJECTが始まったきっかけを教えてください。

阿部__去年末くらいですかね、メンタル的な問題での休職者が出たり、中堅が独立したりと、組織が崩壊的になり危機を感じる出来事が重なったんです。その理由を自分なりに分析したところ、クアドラに所属して働く意義みたいなものが揺らいでいるんじゃないかという結論に達して。

会社を大きな船とした場合、羅針盤が指し示す方角に向かって、多少なりの困難があっても一致団結して進んでいくのが理想的な組織の在り方だと思うんです。でも、長い時間を経るなかで目的があやふやになっていくことってあるじゃないですか。方針がわからなくなってしまったら、船は海上を漂うだけになってしまうので、不安を覚える人も出てくるだろうし、自分で動ける人は船を降りて勝手に漕いで行ってしまうのかなって。だから、あらためて会社がどこを目指しているのかという基準となる羅針盤をつくる必要があると感じました。

そのタイミングで篠原さんから「クアドラの創業15周年に向けた企画を考えてほしい」という依頼があったんですね。そこで「今のパーパスは抽象的な割に長く、誰も共感どころか覚えてもいないので、いっそのことこのタイミングでアップデートするのはどうか?」と提案しました。その方がお祭り的に一過性のイベントを開催するよりも、会社にとって財産になると思ったんです。

━━その話を受けて篠原さんはどう思いましたか?

篠原__今の時代は、広告業界を含めて、働くことに対する価値観が大きく変化していますよね。僕がこの業界に入った1997年頃は、とにかく働き詰めで休む間もなく大変でしたが、それがこの業界の当たり前でした。

ところが今は、働き方にも効率性が求められるようになっていますし、毎日のように徹夜をして消耗しながら働くスタイルもそぐわなくなっています。だからこそ、この15周年という節目に、私たちが今までのやり方や考え方をガラッと変えるくらいのパラダイムシフトがあってもいいと思いました。それくらいのことをしないと、生き残っていけないんだろうなと。

モノづくりの会社として、大切にしたい価値観はそのままに、社員にとって、会社を自分事として捉えてもらい、より一体感を持って、これからをつくっていくために、会社の目指すところを再定義するいい機会だと思いました。

━━今回のプロジェクトでは、meet&meetの小藥元さんがクリエイティブディレクションを担当しています。どうして外部パートナーを入れようと考えたのでしょうか?

阿部__僕らは言葉のプロではないので、自分たちだけでパーパスづくりに取り組んでしまうと中途半端なものになってしまう可能性があると思ったんです。第三者の目線できちんとクアドラのことを考えてもらって、良質な言葉にしてほしかったので、信頼の厚い小藥さんにお願いしました。

━━最初に話を聞いたとき、小藥さんはどう思われましたか?

小藥__すごく光栄でした。自分で言うのも変ですが、僕はパーパスづくりが向いている人間だと思うんです(笑)。だから、お役に立てるだろうなと直感的に思いました。

ただ一方で、これは広告業界に限らず、パーパスづくりがある種の流行になっているんですよね。多くの企業がこぞってパーパスをつくっているし、パーパスづくりを主軸にしたブランディングを売りにしている企業も増えています。

そういう動きに対して、コピーライターとしての僕はちょっと懐疑的なところもあって。なんというか、神棚に飾るような、ただ納めましたみたいな言葉があふれているなと。だから「なんのためにつくったんだろう?」と疑問に思われてしまうような、形だけのものは絶対につくりたくありませんでした。

また、自分の仕事の信念として、社外の人から愛される言葉をつくりたい気持ちが強いんですね。そのためには、社内にいる人たちが会社を愛している必要があって。そのムードをちゃんとつくっていきたいなと考えていましたね。

負の側面にもきちんと目を向けたかった

━━パーパスづくりのプロセスのなかで、社員にインタビューするだけでなく、元社員にアンケートを取ったり、マネージャーを集めてワークショップを開催したり、さまざまな角度からアプローチしたそうですが、なぜそのような手法を取ったのでしょうか?

小藥__仕事にはいろいろな手法があると思うのですが、なかでも複数へのヒアリングが欠かせないと考えているからです。おそらく篠原さんとだけ話したら経営者の目線が中心になってしまうし、阿部さんとだけ話したらクリエイティブやプランニングの話ばかりになってしまうはず。いろいろな立場や肩書きの人たちから話を聞くことで、パーパスの素になる“自分たちを突き動かすもの”が見えてくると思ったんです。

━━すでに退職している元社員にもヒアリングを実施したのは、どのような意図があったのでしょうか?

小藥__これは阿部さんからのオーダーでもあったのですが、クアドラがどういう会社なのかを知るにあたり、もしかしたら悪い側面にもヒントがあるのではないかと。

阿部__今回のプロジェクトは、現状のネガティブをポジティブに変えるためにはどうすればいいかという問題定義が出発点にあったので、さっきの小藥さんの話にもありましたが、綺麗な言葉で繕って神棚に並べても、誰も見ない状況になってしまうんじゃないかなと思ったんです。

━━きちんとクアドラの負の側面も見てもらおう、と。

阿部__それに役員から見えるクアドラと、マネージャーから見えるクアドラと、現場の社員から見えるクアドラでは感覚が違うと思うんですよ。だから、いろんな人の生の意見を可能なかぎり拾い上げて、立体的に考えてほしいという思いもありました。

小藥__実際、プラスの面とマイナスの面、両方の意見をたくさん知ることができたので、今回のプロジェクトを実現していくにあたって必要なプロセスでした。

僕自身、意外だったのは、クアドラはプロデューサーの会社なんだと考えている人が多いということでした。通常であれば、クリエイティブが大切なんだと考える人が多いのですが、そうじゃないんだと。そういうことも実際に話を聞かないかぎりは知り得ない情報だったと思います。

━━ヒアリング実施後は、各チームのマネージャーが集まってワークショップを実施したそうですが、取り組んでみて何か気づきはありましたか?

阿部__ワークショップって基本的にアウトプットの場だと思うのですが、僕にとってはインプットの場にもなったと思っていて。先ほども話したように、会社の見え方って人によってまったく異なるんですね。役職やチームはもちろん、僕のように中途入社の社員と、創業当初から在籍している社員でも違う。それぞれがクアドラをどう考えているのかを知ることなんて滅多になかったので、すごく良い機会になったと思います。

篠原__本来であれば、話し合いの場を定期的に持てば良かったのですが、忙しさを理由にやってこなかったんですよね。だから、阿部くんが言うように、みんなの考えを知る良い機会になったと思います。

僕自身は、どうしても古い価値観に縛られているところがあると認識できましたし、だからこそ、これからのクアドラの発展のためには、まだ若いマネージャークラスの社員がリーダーシップを発揮していくことが重要になってくるという実感を持つこともできました。

小藥__ワークショップは実施する方も参加する方も労力をかけることになるので大変なんですが、言葉は自分たちの想いや魂を込めることではじめて機能するものになるので、みなさんが時間をかけて参加するだけの意義があるものになったと思います。

社員一人ひとりが会社を動かす原動力になる

━━ワークショップ後、小藥さんは言葉にまとめる作業をどのように進めていったのでしょうか?

ワークショップで各マネージャーが書き出したカード

小藥__「KJ法」といって、みなさんに書き出してもらったカードをグループ化して、系統ごとに整理・分析しながら情報を有機的に繋げていく作業を行いました。その結果として「純粋な好奇心」という言葉が浮かび上がってきて、それを基点にパーパスへと仕上げていきました。

その際に意識したのは、「デジタル」「クリエイティブ」「体験」といった言葉に逃げないことでした。こういう言葉は、デジタルを主軸にしている会社だからこそ連想しやすいので、簡単にそれっぽい表現になってしまうんですよね。

でも、僕としては、もう一段階深いところに行きたいと考えていました。クリエイティブ職やプロデュース職ではない人も共感できて、自分の言葉になり得るものにしたいなと。

阿部__小藥さんのおかげで不要なものを削ぎ落とすことができたなと思いました。クアドラって良くも悪くも「デジタル領域でなんでもやります」っていう会社なので、増やしていくことばかり考えていたと思うんですよ。

だから、幅を広げるのはけっこう簡単にできると思っていて。逆に減らすことはできていなかったから、削ぎ落とす作業のなかで自分たちが本当に捨ててはいけないものが垣間見えた気がしています。いい体験だったなと。

━━最終的に『純粋な好奇心と才能の掛け算で、世界に、社会に、「新しい出来る」を次々と実現させていく。』というパーパスが完成したわけですが、どのような印象を持ちましたか?

篠原__みんなが自分ごと化できる言葉であることが大切だと考えていたので、非常に整理された表現だと思いました。「こうあるべき」とか「こういうふうにしろ」となっていないところもいいなと。

阿部__今までは「デジタルです」や「クリエイティブスタジオです」のように、わかるようでわからない言葉がクアドラらしさを形づくっていたと思うのですが、それって一部のフロントに立つ人間にしか共有されていなかったと思うんですね。

当然ながら会社には、バックオフィスでサポートしてくださる方々もいて、みんなが同じ方向を目指せる言葉じゃないといけないわけで、そういう意味では、みんなが指針にできるものが完成したと思います。

━━パーパスとは別に、5つのバリューを「QUADRIVES」(クアドライブス)として掲げています。

小藥__自分で言うのも変ですが、僕は「QUADRIVES」という言葉がすごく好きで。これって、もっとわかりやすくするために「QUADRA Value」でもよかったわけじゃないですか。でも、あえてそうしていない。

これってQUADRIVESというバリューがクアドラを動かすのはもちろんなのですが、それと同時に社員一人ひとりがQUADRIVESなんだということも意味しているんですよね。

クアドラという船の船長は篠原さんですが、篠原さんだけではクアドラという船は動かない。社員一人ひとりが船を動かす原動力になるということをみんなが意識できる言葉になっているんじゃないかなと思います。

━━なかでも「頼れる空気」という言葉が入っているのが印象的です。

阿部__バリューを社内で初お披露目したとき、匿名アンケートに「”頼れる空気”が挙げられているということは、頼れない空気があるんですか?」と書いた人がいて、確かにそういう捉え方もあると思いました。

でも、最初に言ったとおり、綺麗な言葉でまとめても仕方がないし、これは盾になる言葉になるはずなんですよ。これまでのクアドラは、良くも悪くも仕事ができる人の言動が優遇されがちでした。もちろん、そういう人が会社を引っ張っていく側面はあるのですが、一方でスタンドプレイに陥りがちになるので孤立を生む可能性もある。助け合うことも組織には必要なので、絶対に入れておいたほうがいい言葉だと思います。

━━今いる人というよりは、これから入ってくる人に向けた言葉のような気もします。

阿部__そうかもしれないですね。

小藥__「頼れる空気」って、普通だったら「ワンチーム」のような綺麗な言葉にまとめがちなんですが、そうではないのがクアドラらしいなと。それはやはり、阿部さんが最初に感じていた退職者が増えているという危機感に対する覚悟の現れでもある気がしますし、この言葉を掲げたいという現場からの強い思いがあったように思います。なんだかんだ言って、綺麗事だけでは会社は成り立ちませんから。ある意味、今回のプロジェクトの象徴になったのではないでしょうか。

パーパスとバリューをすべての行動原理に

━━実際に作ったものを具体的にどう運用していくかについては、なにか考えはありますか?

篠原__まずは、みんなの目につくところに掲示したいですね。言葉を書いてポスター的に貼るのではなく、何かしたらクアドラらしい工夫を凝らしたいですが。あとは、僕がことあるごとにしつこく話をしていくことも大切だなと思います。とにかく風化させない。新しくできたパーパスとバリューのもとに行動することを徹底していく。その状態をつくっていきたいですね。

阿部__15周年にかこつけて僕のほうで提案させてもらったものがいくつかあって。

ひとつは年末の表彰。今までも社内投票でMVPを決めて、納会で金銭の授与による表彰をしていたのですが、明確な基準がなかったので、とにかく頑張って働いた人に票が集まりやすい状況がありました。

ただ、それだとバックオフィスのような表に出ない仕事をしている人は評価されにくいじゃないですか。そこで今年からは、QUADRIVESというバリューを体現した人を評価できるようにしたいと考えています。それこそ「全員主人公」を体現できるなと思います。

また、それに付随して、MVP用のピンバッジを渡すことも予定していて。そうすれば、賞与をプロジェクトに携わったチームメンバーとの飲み会で使い切って忘れられてしまうのではなく、評価されたことが形として残り続けるので、昇格者を選出する際にも役立つと思うんです。

━━バリューに即した行動を取った人だということもひと目でわかりますよね。

阿部__そうですね。だから、ピンバッジは他にも種類をつくる予定です。実は現在、新入社員に配布するためのウェルカムボックスをつくっていて。そのなかには、パーパスやQUADRIVESに関するカードや社長からのメッセージ、メンバーの写真付きの組織図などを入れるのですが、入社記念のピンバッジも加えたいなと考えています。入社したタイミングがいちばんワクワクしてほしいから、自分もクアドラの一員になったんだと思ってもらえたら嬉しいなと。

━━そういうことを筆頭にこれから随時展開していくということですよね?

阿部__そうですね。あとは、当たり前ですが、僕たち決めた側の人間がQUADRIVESの一個ずつの項目をきちんと実践していくことも大事だなと思っています。

篠原__これからの時代、組織はトップダウンでは成り立たないと考えています。裏を返せば、クアドラに所属している一人ひとりのパワーだったりモチベーションだったりが会社の存続に大きく影響するということでもあるので、みんなが純粋な好奇心と才能の掛け算によって最高のパフォーマンスを発揮できるように、僕はマネジメントを頑張っていきたいと思います。とにかく、みんなでこれからのクアドラをつくっていきましょう、という感じですね。

取材・文:村上広大

(この記事の内容は2022年9月1日時点での情報です)





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