内緒の関係 ちずる奥様のストーリ③
ちずるさんのさらりと長い髪が、風に靡いて翼のように広がった。
乱れかけた髪を、ちずるさんは何気ない手つきで払う。所作のひとつひとつがとても美しい。
良い匂いが広がって、ドキリとさせられる。
こちらの反応に気付いたのか、ちずるさんは握った手に優しく力を込めてくれた。
思わずこちらの握る手に力が入りそうになり、慌てて力を抜いた。
(まったく……この人と一緒にいると、つい若い頃のように緊張してしまうな……)
今年三十路の若造が何を生意気なことを思われるかもしれないが、これでも一企業の社長を務めているだけあって、腹芸や世渡りには自信がある方だ。
しかしそんな自負も、ちずるさんを前にすると急に役に立たなくなってしまう。
嫌な思いをさせていないか、楽しんでもらえているか、そんなことばかりが気になって緊張してしまう。
それだけ彼女は大人の魅力に満ち溢れていた。
いますぐにでも、彼女の体を隅々まで味わい尽くしたい――そんな気持ちも、彼女には筒抜けだったのだろうか。
「そろそろ、行きましょうか?」
移動するタイミングとしては、いつもより少しだけ早い。
こちらの想いを組んでの提案なのだろう。
あるいはもしかすると、ちずるさんの方も早くしたいと思ってくれているのだろうか。
どちらにしても自分に否やがあるわけがない。早速ホテルへと向かった。
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