ドイツ・ドリッテリーガ23/24シーズン総括

 5月18日に全380試合が終了し閉幕したドイツ3部リーグ 3.Liga(以下:ドリッテリーガ)のシーズンを、昇格チームおよび降格チームのまとめ、シーズン通して印象に残った出来事を通して振り返る。


最終順位

 2023/2024シーズン ドリッテリーガの最終順位は下記の様になった。

23/24シーズン 3.Liga最終順位



昇格チームの振り返り

 優勝は勝ち点77を上げたSSVウルムに。ツヴァイテ・ブンデスリーガ(ドイツ2部)への自動昇格は、SSVウルムとプロイセンミュンスターの2クラブに。3位の入れ替え戦圏はヤーン・レーゲンスブルクという結果となった。

 昨シーズンのレギオナルリーガ・ズュートヴェスト(ドイツ4部)優勝クラブのウルムと、レギオナルリーガ・ヴェスト(ドイツ4部)優勝クラブのミュンスターは、2年連続での昇格となった。
 昨シーズンにもSVエルフェアスベルク(今シーズン2部11位)が2クラブと同様に2年連続となる昇格を果たしていたが、今シーズンは2つの昇格チームがツヴァイテリーガへの昇格を果たした。これは3部の歴史の中で一度も起こったことがない偉業だそうだ。



SSVウルム

 ウルムは23年ぶりに2部へ復帰し、歴史的な成功を収めた。
 15/16シーズンにオーバーリーガ(ドイツ5部)からレギオナルリーガ(ドイツ4部)への昇格したチームは、そこから7年間レギオナルリーガで過ごし、昨シーズンにレギオナルリーガ・ズュートヴェストのチャンピオンとなり、ドリッテリーガへの昇格を果たした。
 
 迎えた今シーズン、シーズン前半戦の19節終了時点での順位はウルムが勝ち点33の3位だったが、シーズン後半戦を13勝5分1敗と調子を上げ、自動昇格圏および首位の座へと上り詰めた。また、2024年に入ってからの成績は圧巻のもので、2024年に行われたリーグ戦18試合で”無敗”と圧倒的な成績を残した。

 成功の立役者であるトーマス・ヴェルレ監督は、以前はFCバイエルンの女子サッカーチームの監督を務めており、21/22シーズンからウルムの監督に就任すると、1シーズン目に1位SVエルフェアスベルクと勝ち点差3の2位に、2シーズン目でレギオナルリーガ・ズュートヴェストを優勝、迎えた今シーズンにもドリッテリーガで優勝という結果を残した。
 同氏は、「言葉にするのが難しい。もちろん、今日は決着がつくことを期待していた。それが実際に起こったという事実は、もちろんクレイジーだ。チームは本当に大きなことを達成した」とSWRスポーツとのインタビューで語った 。

 DFL から2024/25シーズンのツヴァイテリーガのライセンスを受け取り、見事に2部への昇格を果たしたクラブではあるが、クラブのホームスタジアムであるドナウシュタディオンを、2024年7月17日までに2部のレベルに引き上げる必要がある。具体的な内容としては、投光器、ゴールライン、メディアテクノロジーに関するものである。



プロイセンミュンスター

 ミュンスターは23/24シーズン前半戦を勝ち点25の12位で折り返した。自動昇格圏までは勝ち点差15となっていたが、シーズン後半戦では調子を上げ13勝3分3敗の成績を挙げると、折り返し時点で首位だったヤーン・レーゲンスブルクやディナモ・ドレスデンら調子を落とした上位クラブをかわし、自動昇格圏の2位へと上り詰めた。

 ミュンスターはリーグ最高の攻撃陣を擁しており、2トップのFWジョエル・グロドウスキーとFWマリク・バトマズの2人が共に17ゴールを挙げ、得点ランキング2位タイに。そして、この2トップが振るわなかった場合は、ミュンスター生まれのキャプテン、MFマルク・ローレンツが違いをもたらした。チームの総得点数は68得点で、リーグトップの数字となった。

 ミュンスターの成功の最大の要因として名前が挙げられているのが、ピーター・ニーマイヤー氏だ。かつてはブレーメンやヘルタベルリン、ダルムシュタット等でプロキャリアを経験した彼は、2020年にスポーツダイレクターとしてミュンスターに加わり、2年後にはスポーツマネージングダイレクターに昇進した。サッシャ・ヒルドマン監督とのコンビで、レギオナルリーガへ降格したチームを立て直しに成功させた。また、今シーズンに活躍したFWジョエル・グロドウスキー、FWマリク・バトマズ、MFルカ・バッツォーリらを獲得した功績も彼が称えられている理由の1つとなっている。

 昇格を果たしたミュンスターではあるが、2つの問題点が現時点で挙げられている。
 1つ目は、”成功の父”称されているピーター・ニューマイヤー スポーツマネージングダイレクターが今シーズン終了後にミュンスターを去り、ブレーメンに移籍する予定であること。後任には、現在マーケティング・戦略・コミュニケーション部門のマネージングダイレクターを務めるオーレ・キトナー氏が就任することとなっているが、依然として彼を失ったリスクは大きいとされている。
 2つ目は、プロイセンシュタディオンの要件。現在12,800人の観客を収容できるスペースがミュンスターのホームスタジアムには存在しているが、DFLは1部と2部のチームが少なくとも15,000人の観客を収容できるスペースを提供しなければならないと規定している。投光器も規定の基準である 1,200 ルクスを満たしておらず、メディアエリアも改善する必要がある。スタジアムは 2027 年までに再建され、20,000人の観客を収容できるスペースが提供される予定となっている。



ヤーン・レーゲンスブルク

 3位は、昨シーズンに2部を17位で降格したヤーン・レーゲンスブルク。 
 レーゲンスブルクは、リーグ戦10連勝を挙げてカールスルーエSCが2012/13シーズンから保持してきたリーグ記録に並ぶなど、好調な滑り出しを見せ、シーズン前半戦では勝ち点42を獲得し首位で前半戦を折り返した。

 だが、好調な前半戦と打って変わり、首位だったチームはシーズン後半戦では不調が続いた。レーゲンスブルクのシーズン後半戦の不振は、レーゲンスブルク所属のMFアギュマン・ディアウジ 25歳の心筋炎による急死も少なからず影響しているだろう。彼の死によるショック受けたクラブは、後半戦の19試合で僅か4勝しか挙げることが出来ず、昇格も危ぶまれる状況となっていった。だが、最後の所で踏ん張り、シーズン後半戦16位のチームは、何とか入れ替え戦圏となる3位でフィニッシュした。
 自動昇格最後の1枠を争っていたプロイセンミュンスターのキャプテン、マルク・ローレンツからは、「レーゲンスブルクには脱帽する。今シーズン、彼らはアギー(アギュマン・ディアウジの愛称)の死という残酷な運命の一撃に見舞われたが、ここまで近づいてきた。このクラブに敬意を表する」と激励の言葉が寄せた。

絶好調の前半戦から絶不調の後半戦、と非常に忙しないシーズンを送ったチームだったが、入れ替え戦では2部16位のヴェーエン・ヴィースバーデンと戦い、2試合合計4-3で昇格を勝ち取り、見事1年での2部復帰を果たした。
 2部復帰後にレーゲンスブルクのダウンタウンで行われたチームのレセプションでは、ファンが「アギー・アギー」と繰り返し叫んだ。レーゲンスブルクMFのコンラッド・ファーバーは、「アギーが上から見守ってくれていると確信している。私たちは彼を誇りに思っている」と語った。
 ディアウジのユニフォームは降格試合のヴィースバーデン戦にもベンチに持ち込まれており、レーゲンスブルクの勝利を見守っていた。




降格チームの振り返り

ハレ

 ハレシャーFCは12年間在籍していたドリッテリーガを降格する結果となった。『近年成績が低下傾向にあったことを考慮すると、この結果は当然だ。』と中部ドイツ放送局はコメントしている。

 ハレが1年でドリッテリーガへ復帰するためには、レギオナルリーガ・ノルトオスト(ドイツ4部)で、FCカールツァイスイエナやケムニッツァーFCなどのプロリーグを目指すチームと競争し、1位となる必要がある。また、1位でシーズンを終えたとしても、当リーグは今後2シーズンはドリッテリーガへの直接昇格はなく、他地区チャンピオンとの昇格プレーオフを戦わなければいけない。そのため、中部ドイツ放送局からはクラブにとって『復帰は非常に困難な旅である』と形容されている。

 今シーズンは28人の選手が所属していたが、既に18人の選手の退団が発表されている。また、指揮を務めていたシュテファン・ライジンガー監督の後任は未だ不明で、監督探しも進めていかなければいけない。

 ポジティブなニュースとしては、スポンサーが地域リーグでもハレに固執しているため、すぐにドリッテリーガに復帰できるほどの経済的バッファが見込まれている。また、ザクセンアンハルト州カップ(州カップ戦)で優勝し、来シーズンのDFBポカールへの出場権を獲得している。



デュイスブルク

1963/64シーズンブンデスリーガの記念すべき第1シーズン目で準優勝したチームは、35年の時を経てプロサッカーに別れを告げることになった。 2008年にデュイスブルクはブンデスリーガから降格し、2019年にはツヴァイテリーガから降格した。そして、2024年にドリッテリーガからの降格が決定した。

 今シーズンのデュイスブルクは、トルステン・ジーグナー、エンジン・ヴラル、ボリス・ショマーズ、ウーヴェ・シューベルトの計4名の監督がチームを指揮していたが、いずれも振るわず、低迷期続いていたクラブは遂に18位でフィニッシュした。

 クラブが何故このような現状となっているのか、『liga3-online.de 』は伝統的なクラブの衰退理由として以下の理由を挙げた。

 1つ目が財政問題。13/14シーズンにツヴァイテリーガのライセンスが付与されず、強制降格となったタイミングからこの問題は始まり、シーズンを重ねるごとにクラブ状況が悪化していった。
 2つ目が人事の決定。デュイスブルクは常に有名な選手を獲得することが出来たが、調和のとれたチームが現れることはほとんどなかった。ブンデスリーガ経験のある30歳以上の選手は皆、ファンに喜びよりも頭痛の種を与えることとなった。監督選びについても同様に、人事決定には具体的なコンセプトがなかったため、改善のために打った手は、より良いチームを作る一手とはならなかった。
 3つ目は運の欠如。主に負傷者の増加。今シーズンも、ニクラス・ケレとトーマス・プレドルはシーズン初めに肩に重傷を負い、マービン・バカロルツとキャスパー・ジャンデルはシーズン後半の初めに膝を負傷、セバスティアン・マイは十字靱帯断裂のため欠場しており、パスカル・ケプケは膝の問題によりほぼ試合に出ることはなく、怪我人の続出によりチームの機能性が低下していた。

 今シーズンを最後まで指揮したシューベルト監督は来シーズンに指揮をとらないことが決定しており、来シーズンに向け、まずは監督探しから始めなければいけない。
 また、選手の放出も余儀なくされる。現在地元出身の選手2名のみがチームに残ることが発表されているが、他のすべての選手は退団することが見込まれている。新たにチームを一新する機会となり、古豪が生まれ変わるための良い機会にはなるかも知れない。
 イアゴ・ヴァルト取締役会長は、『目標はすぐに3部リーグに復帰することだ』と語っている。



リューベック

 2020/21シーズン以来、2度目のドリッテリーガ挑戦は、またも厳しい結果に終わった。リーグ最少得点タイとなる37得点に、リーグ最多失点の77失点と悲惨な成績を残した。
 開始4試合で1勝3分と明るい兆しが見えていたが、そこからシーズン折り返しまで僅か1勝しか挙げることが出来ず、チームを3部昇格に導いたルーカス・プファイファー監督を12月に解任した。

 昇格組のリューベックが降格したことは妥当な結果と言えるだろう。ウルムやミュンスターが上出来すぎるだけであり、クラブの規模や予算、チームの質を考慮すると決して悲観的な結果ではない。
 多くの大敗を喫し、35節での降格決定となったが、今後のクラブの成長のための糧となることを期待する。



フライブルクII

 昨シーズンのドリッテリーガで2位となったチームは、打って変わった今シーズンでは低調なシーズンを送った。
 前半戦19試合で勝ち点9しか獲得することが出来ず、大きく遅れをとっていたが、シーズン後半戦では勝ち点21を獲得し、シーズン後半戦の順位のみで見ると、順位を落としたドレスデンやレーゲンスブルク、さらにはビーレフェルトと同等の成績を収めた。

 昨シーズンの飛躍の要因としては、GKノア・アトゥボルやMFノア・ヴァイスハウプト、MFマーリン・レールら若手選手が、トップチームが主戦場となったことに原因がある。これは、DFアルフォンソ・デイヴィスやミハエル・キュイザンスらを起用していたバイエルンIIが、19/20シーズンで首位になったものの、翌シーズンで18位となり降格した際にも見られた光景だ。

 フライブルクIIは翌シーズン、レギオナルリーガで戦うこととなったが、トーマス・シュタム監督なしで、翌シーズンを迎える事となった。
 シュタム監督はディナモ・ドレスデンへ行き、新監督にはヴィクトリア・ベルリンで3部リーグに昇格したこともあるティム・ムツィカート氏を迎えた。

 フライブルク・フットボールスクールのスポーツダイレクターであるマルティン・シュヴァイツァー氏は、「我々は彼(ベネデット・ムツィカート)のことをヴィクトリア・ベルリン時代から知っており、選手としてもコーチとしても興味深い経歴を持つ彼は、ぴったりだと信じている。我々はベネデットと協力し、フライブルクのフットボールスクールから我々のプロチームのために選手を育成する道を歩み続けることを楽しみにしている。」とコメントしている。



Kicker紙ベストイレブン

  Kicker紙のドリッテリーガ ベストイレブンは以下の様になった。

Kicker紙ドリッテリーガベストイレブン

 昇格したウルムからは2人、ミュンスターからは4人が選出。リーグ戦で18得点を挙げ得点王となったインゴルシュタットのFWヤニック・マウゼや、13ゴール9アシストを挙げたドルトムントIIのMFオーレ・ポールマンらも名を連ねた。




その他特記事項

最年少ゴール記録の樹立

 ウンターハヒンク所属の16歳ギブソン・ナナ・アドゥは、33節のVfBリューベック戦で68分に途中投入されると、直後の72分にチームの4点目となるゴールを決めた。これまでバイエルンIIに所属していたダビド・アラバが保持していた『17歳と66日』の最年少ゴール記録を塗り替える『16歳と59日』でのゴールとなった。

https://youtu.be/OcXcwH5fpCk?si=4ZfA6ayIHs8xO-8N



ドイツ男子プロサッカー界初の女性監督の誕生

 35節エッセン戦を4-0で敗北し、ミヒャエル・ケルナー監督を解任したFCインゴルシュタットは、後任としてU19チームを指揮していたサブリナ・ヴィットマン氏を暫定監督として指名した。
 ドイツ男子サッカー界初の女性監督となったサブリナ・ヴィットマンは、就任以降のリーグ戦3試合を1勝2分で終えると、州カップ決勝戦でも勝利を挙げトロフィーを掲げた。指導者ライセンスの都合上、彼女が正式な監督として指揮を続けるのは望み薄であり、FCインゴルシュタットは他の監督探しを始めているが、クラブの歴史にとっても、リーグの歴史にとっても、ドイツプロサッカー界の歴史においても彼女は名前を刻んだこととなった。

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