365日のみじかいおはなし(214日目)
新入社員初の金曜日
今日は入社して初めての金曜日。
ボクが入社した飲料会社の営業第2部には、
新人がボクしかいない。
上司と先輩がそんなぼくのために
個人的に歓迎会を開いてくれた。
体も声も大きい上司は、いかにもお酒が好きそうだ。
お店に着くとボクを上座に座らせ、「今日だけだぞ」と言う。
そして案の定、こう宣言した。
「オレは酒が好きだ」
ボクは次に続く言葉を恐れた。
酒が飲めないからだ。
しかし、上司は思いもしないことを言った。
「でも飲むのを強要はしないから」
そう言うと、唐揚げ、とん平焼き、ポテトフライと、
イメージ通りのものを注文してひたすらビールを飲み続けた。
ボクは安心した。
そしてウーロン茶を飲み続けた。
上司が満足そうな目をして笑っていた。
本当にホッとした。
見た目は体育会系でも、中身は優しい人なんだなと。
場が盛り上がってくると「飲めよ」とか言われるのかと思ったけれど、
そんな雰囲気はみじんもない。
先輩も上司に合わせることなく、淡々と自分のペースで飲んでいる。
上司は「ガブガブ」という言葉を擬人化したかのような勢いで
次々とジョッキを空にする。
営業第2部。
当たり部署だ。
ボクは確信した。
調子に乗ったボクは思わず上司に本音を打ち明けた。
ボク:正直、社会人になったらお酒を強要されると思ってました
上司:「酒を飲め」なんて命令する上司は絶対バカだ
ボク:アルハラですもんね
上司:いやそういうことより・・・
ボク:?
上司:オマエが飲んだら会計が高くなるだろ
ボク:えっ・・・
上司:今日はおごりだが、次からは割り勘だからな
ボク:えっ・・・えっ・・・?
上司:毎週金曜夜は営業第2部定例「飲み会議」だ
ボク:えっ・・・ちょ・・・ってか毎週・・・?
先輩は黙ってうつむき、自分のペースで飲んでいる。
いや、自分のペースというより、心を失ったロボのようだ。
上司は最後に笑って言った。
「これは上司命令だからゼッタイだ」
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