もしもサッカーの試合前におしっこしたくなったら
日曜日の14時。
男は困っていた。
サッカーの試合前におしっこがしたくなったからだ。
サッカーといっても、小学校の校庭を借りて知り合いと楽しむ草サッカー。
カラーコーンを四隅に置いただけのミニコートだ。
今日は12人来ているので6対6。
「そろそろ試合やりまーす」
リーダー格の声かけを聞きながら、男はまだ悩んでいた。
「おしっこしたい」
ただ、学校のトイレを借りるのも一苦労しそうだし、
(警備員さんに話してなんやかんやとか)
いま男がいなくなると6対5になってしまう。
団体スポーツにおいて、合計人数が奇数になることは望ましくない。
「がまんしよう」
決断した男はミニコートに向かった。
9月下旬とはいえ14時はまだ暑い。
ちょっと走るだけですぐに汗が噴き出してくる。
試合は劣勢、というか大劣勢。
10分間で4失点。
男はミニコートを走り回るだけで、ほとんどボールに触れられなかった。
0:4で完敗。
「しょっぱい試合だったなぁ」
休憩に入って開口一番、リーダー格の男性がくやしがる。
男はそれを聞きながら地べたに座りこんで水を飲む。
ユニフォームはすでに汗でびちょびちょだ。
おでこから鼻筋を通った汗のしずくが男の口に染みわたる。
「しょっぱいっすねぇ」
男はもう、おしっこしたかったことを忘れていた。
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