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上から「危機感」を伝えても、下の人間は動かせない

初noteということで駄文を書いてみます。
私は零細IT企業に勤める正社員開発者で、ヒラ社員ではありませんが他社案件に派遣で従事することも多いです。まあこの辺りは同業者ならお分かりと思います。

色々な派遣先で何度も見てきた光景ですが、組織の上のほうから「危機感を持て」というメッセージが社員に向けて届くことがあります。先日も遭遇したので暇に任せて思うところを書き留めます。
内容自体は間違いなく、どこかで誰かがすでに書いている内容です。タイパを求める方は別の記事をお読みになるほうが有益でしょう。

さて、「上のほう」とくくりましたが、これにもちょっとだけ区別があります。社長とか役員とか経営層の「労働基準法での労働者でない人」と、部長や課長といった役職者です。この区別で概ね、「何に対しての危機感」をつたえようとするかが変わってきます。
社長などであれば、「会社の存亡に関わる収益やイメージ」です。
部長などであれば、「管轄するプロジェクトの収支や進捗」です。

なぜ、「危機感」を伝えようとするのでしょうか。
それは例外なく「社員はもっとがんばれ」の理由づけとしてです。

しかしその理由づけは、役職者以下の一般社員には伝わりません。

伝える側は、会社での立場が上に行けば行くほど、当たり前ですが高給や好待遇になります。社長解任や、部署消滅で役職ポスト減という事態になればそれらは当然悪くなるでしょう。
かといって高給と待遇を維持した転職もゴロゴロあるわけではありません。高給取りであればあるほど「会社・プロジェクトの危機」は「個人の危機」とイコールになり「危機を乗り越える」という結果を求めます。

伝えられる側はどうでしょうか。
業績悪化で会社がつぶれるなら、面倒ではありますが転職すればよいでしょう。
また大きな会社であるほど、プロジェクト失敗で所属部署が消滅したとしても、それをもって直ちにクビや減給になることはありえません。これも別の仕事を覚える等の面倒はあるでしょうが・・・。

一般社員にとって、たいした「個人の危機」ではないのです。これらはそもそも「危機感を覚える責任がない立場の対価で雇われている」からです。報酬や待遇の維持は他社でも比較的容易で、危機を乗り越えないと維持できないものではないのです。
会社が意図してその待遇で雇っているのですから、危機感を伝えられることは「もっとがんばる」理由になり得ません。(サービス残業を良しとする、いわゆる「社畜」を除く)

また仮に「給料泥棒」レベルの社員であるならば「このままだと減給や解雇になるよ」という個人のデメリットを伝えるべきであり、そういった人に会社やプロジェクトの危機感を説いても無駄でしかないでしょう。
複数人のチームで対価と成果が見合っていないのであれば、そもそも何かの問題を抱えているわけで、原因調査し対策をとることが必要です。危機感を伝えたところで解決することは何もありません。

平時の対価と成果に問題がなく、危機を乗り越えたいなら、「給与を2倍にするのでこの危機を脱しよう」や「期間中の飲食代はすべてポケットマネーから出すので、プロジェクトを納期に間に合わせよう」といった、求める結果に見合う対価を示すべきでしょう。そして当然ながらそこには「危機感を伝える」内容はまったくありませんし、必要もありません。対価の約束が全てです。ようするにニンジンをぶら下げるわけです。
「そんなことはできない」というのであれば、自身の対価だけを確保しつつ、部下には対価以上の責任と成果を求めているということです。虫の良い話であるというのは明らかですね。結局は「上のほうの『個人としての』危機感」のすり替えなわけですから、主観の押し付けにすぎません。

人は成り上がり歳を取ると、新人だった若いころに同じことを言われて感じたことは忘れ去っていきます。また、もともと社畜根性で成り上がったなら、それ以外の思想での行動原理は理解していないかもしれません。

コンプライアンスを脅かす社畜を選別しているのでない限り、上から「危機感」を伝えて人を動かそうとするのはいかがなものか、と改めて考えさせられました。

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