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文学散歩のススメ

 マズローの生理的欲求というのがありますね。そのうちの3つ、「睡眠欲」「食欲」「性欲」というのがよく知られています。

 私個人はこの生理的欲求に、「読書欲」というのが加わります。
 たとえば、寺山修司の随筆や村上春樹の小説本を読みはじめたら、もうそれはたいへん、完全にこの生理的欲求のギアがMAXまで入ります。いっさいそのほかのことが疎かになって、手がつけられなくなります。

 私の場合、幼少の頃からこの「読書欲」というのが常にありました。本を開くこと、本に触れて紙の質感(材質)に底知れぬ安寧を感じること、同じ本を何度も読み返すこと、書いてある文章を声を出して読みたくなること、などなど。

 小説が読みたくなる欲求は、小学生の頃にすでに芽生えていて、江戸川乱歩の探偵小説をポプラ社の児童書でよく読んだりしました。

 こうした「読書欲」の生理的現象、あるいはこの観念にかかわらず、文学に染み入った生活習慣は、決して悪いものではないと思います。ただ子供たちの中には、文学に触れるきっかけが掴めない人も少なからずいると思います。

 まず人生における文学散歩のきっかけを掴むには、国語の教科書が最適です。
 私が特に好きだったのは、高校3年時(1990年)の国語教科書で、筑摩書房の『高等学校用 国語Ⅱ二訂版』(秋山虔・猪野謙二・分銅惇作 他編)でした。

 もうこの筑摩の教科書にハマりました。
 ビジュアルでは岸田劉生の「道路と土手と塀」にハマり、随筆では唐木順三、柳田國男、伊藤整、武満徹、梶井基次郎、詩の表現では高村光太郎、谷川俊太郎、小説では中島敦、三木卓、樋口一葉、夏目漱石、高橋和巳、古典では万葉集、李白、本居宣長などなど。
 この教科書から小説の深い味わいに興味を抱き、漱石の文庫本を買い込み、卒業後は三島由紀夫にハマり、司馬遼太郎にハマっていったという感じです。後々、岩波の『漱石全集』と漱石の初版本のレプリカを揃えられたときには、なんとも言えない達成感というか安堵感を覚えました。

 学生さんが好きな作家の小説を読み込むには、文庫本が一番安価で手に入れやすいという点で、オススメです。むろん、きっかけは国語の教科書から。
 もう一つ、文学散歩でオススメなのは、『広辞苑』を買うことです。

 『広辞苑』は、学生さんにとって少々お高い、ハードルの高い書物のイメージがあると思いますが、これを買うことを目標にお金を貯めることは、より文学的生活習慣を高めることにつながるので、文学へのモチベーションが格段にアップします。
 『広辞苑』を眺める(=舐め読みまわす)ことで、全く知らなかった分野を発見し、文学と言語の世界がより広がっていくことは言うまでもありません。
 最新版の『広辞苑』は高いよねと思うのであれば、古い版の『広辞苑』を古書店で見つけるのも一つの手でしょう。ネットショップなら、「日本の古本屋」がオススメです。版が古くても、新語だとか些細なことを気にしない限り、大した違いはありませんから。

 こんなふうにして文学散歩を楽しみたいと思った学生さんには、ぜひ国語教科書を読み返すことと、『広辞苑』を買うことをオススメします。

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