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病気コラムvol.9
~日常生活に潜む危機。寄生虫が運ぶ感染症~
人も動物も感染・発症の危険あり
ぽかぽかと日差しの温かい季節がやってきました。
重たい冬服を脱ぎ捨てて身も心も軽快に、
さぁ、今日はどこに出かけようか!
うきうきと計画するその前に。
皆さん、寄生虫対策は万全ですか?
気温が13℃以上になると、
ノミやマダニといった寄生虫の活動が本格化します。
この寄生虫たちは、
近くを通る温血動物に飛びついて血を吸い、
その血を糧に大量の子孫を産み増やします。
ある日突然、
うちの子のフワフワの毛の間に、小さい虫がいるのを見つけた。
いつの間にか家に見慣れない虫が大量発生していた。
そんな恐怖体験をしたことがないあなたは、
「虫でしょ?見つけたら駆除すればよくない?」と、
軽く考えていないでしょうか。
その発想は危険です。
なぜなら、寄生虫を発見したその時にはすでに、
重大な異変がからだに起こっている可能性があるからです。
①寄生虫と病原体
寄生虫の中には、
ウイルスや細菌といった、もっと小さな病原体が潜んでいて、
吸血時にそれをうつされることがあるのです。
重症熱性血小板減少症候群、つつが虫病、
日本紅斑熱、ダニ脳炎、ライム病など、
寄生虫を介して人や動物にうつる病気の発生報告は、
絶えることがありません。
有効な治療薬がない病気や致死率の高い病気もあるため、
寄生虫対策をしっかり行って日々備えることが、
人と動物の健康維持にはとても重要なのです。
寄生虫による吸血の回数や時間が増えるほど、
病原体をうつされる確率は高くなります。
吸血時間が長い寄生虫の代表は、マダニです。
ひとたび咬みつくと数日~長い場合は、
10日間にもわたり血を吸い続けます。
吸った血の量だけ、マダニのからだは、大きくなります。
![](https://assets.st-note.com/img/1712297224126-Oa7ennSpdI.png)
引用:犬・猫・エキゾチックペットの寄生虫ビジュアルガイド (出版:EDUWARD Press)
![](https://assets.st-note.com/img/1711698755067-4bgu41HvBK.png)
引用:犬・猫・エキゾチックペットの寄生虫ビジュアルガイド(出版:EDUWARD Press)
目につく大きさのマダニが付いているということは、
それだけ長時間、血を吸われ続けていた、ということ。
つまり、
病原体をうつされた可能性が高い、ということです。
マダニを見つけたから駆除しよう、では遅いのです。
マダニからうつる病気を防ぐには、
マダニをからだに寄せ付けないこと、
吸血された場合はできるだけ早くからだから引き離すこと、
が重要なのです。
②人のマダニ対策
マダニは、草むらや藪などの中に潜んでいます。
みなさんがこのような場所に行くときは、
マダニに咬まれぬよう肌の露出を避けましょう。
長袖&長ズボン&足を完全に覆う靴を着用し、
シャツの裾はズボンの中に、
ズボンの裾は靴下や靴の中に入れましょう。
タオルを巻いて首も隠します。
明るい色の服を着れば、
マダニの付着に一早く気づき、咬まれる前に払い落としやすいでしょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1711698877360-CfOsT90ihZ.png?width=1200)
引用:国立感染症研究所一般向けパンフレット「マダニ対策、今できること」
③動物のマダニ対策
動物でも同様のマダニ対策が推奨されますが、
人のように上手くはいかないでしょう。
鼻から爪の先まで全身を布で覆えば嫌がりますし、
草の中に顔をつっこまないで!
地面の臭いをかがないで!
屋外で寝転がらないで!と、言い聞かせることは困難です。
被毛の中に隠れてしまったマダニを
早い段階で発見・除去するのも至難の業です。
運よく発見できたとしても、
吸血中のマダニを力任せに引き離そうとするのは止めましょう。
ちぎれたマダニの一部が皮膚に残って皮膚炎を起こしてしまいます。
吸血中のマダニを潰すのもお勧めできません。
マダニの中にいる病原体が、動物の体内に押し込まれてしまうからです。
このような問題をおこさず、素早くマダニを落とすには、
どうしたらよいのでしょうか。
答えはそう、
寄生虫駆除薬を欠かさず使い続けることです。
寄生虫の活動が活発になる春~秋はもちろん、
冬でもふいに暖かい日があれば寄生虫は活動を始めます。
寄生虫駆除薬の効果が途切れないようにして、
常にからだを防御しておくことがとても大事です。
④重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
寄生虫を介して人や動物にうつる病気の中には、
その病気になった動物から人にうつる病気もあります。
その例として、重症熱性血小板減少症候群についてお話します。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、
SFTSウイルスによる感染症です。
日本国内での初めての発生報告は2013年、
SFTSウイルスを保有するマダニに咬まれることで
ウイルスをうつされ発症する病気と考えられていましたが、
2017年に、SFTSに感染した犬猫から人への感染が報告され、
2024年3月には、SFTSに感染した人から人への感染報告が、
国内ではじめてありました。
直接マダニに咬まれなくとも、
SFTSを発症した動物や人の体液や
排泄物中に出てきたウイルスに接触し、
感染・発症する可能性がある、ということがわかったのです。
⑤重症熱性血小板減少症候群(SFTS)への対策
SFTSの初期症状は、
「発熱・腹痛・下痢・嘔吐・活動性低下」といった
他の病気でもよくみられる症状であり、
SFTSなのかどうか早い段階で判別することは困難です。
寄生虫駆除を徹底し、
愛犬・愛猫のSFTS感染の機会を減らすことに注力するほうが、
現実に即した対応といえるでしょう。
SFTSの初期症状は先に述べた通りですが、
重症化すると出血傾向や意識障害等の症状を示し、
死亡することもあります。
SFTSを発症した場合の致死率は、
人30%、犬29%、猫60~70%といわれています。
特に猫は、SFTS発症後に急激に重症化しやすく、
致死的な経過をたどりやすい傾向にあります。
完全室内飼育であったとしても、
同居の人や動物が屋内外を行き来する際に
持ち帰ってしまったマダニに刺され、
SFTSウイルスに感染する可能性は否定できません。
SFTSの発生報告は西日本ばかりでしたが、
2019年頃からは、静岡や関東でも散見されるようになり、
西から東へと発生地域が広がりつつあります。
野生動物からも広くウイルスが検出されており、
いつどこで誰が感染してもおかしくはない状況です。
有効な治療薬は存在しないため、
発症してからの治療ではなく、予防が重要です。
![](https://assets.st-note.com/img/1711699143968-ekSJM9qIC7.png?width=1200)
引用:SA Medicine Vol22. No4. 2020. p90(出版:EDUWARD Press)
⑥最後に・・・
寄生虫の恐ろしさは、
血を吸われる、かゆい、いたい、見た目が気持ち悪い、だけではありません。
もっと重篤な、命を落とすほどの健康被害に
つながる可能性があることを認識してください。
適切な服装と寄生虫駆除薬の継続使用で、
大切なうちの動物たちと自分自身、
そして自分たちに関わる周囲の人々の命を、守っていきましょう!
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