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寒(さむ)なりこぐち

夏がすっかり終わって
お月見も済みました。

〽うれし悲しや、月見の団子
食べりゃ、夜なべも、せなならん
(しなければならない)

こんな戯れ歌を聞かせてくれた
明治生まれの祖母猫は、秋が深まるころを
≪寒なりこぐち≫と呼んでいました —―
古い大阪ことばの響きで。

こぐち、って小口?
寒さを迎える小さな戸口?

昼と夜の寒暖の差が大きくて
羽織るものが欠かせないこのころは
夏物と秋冬物を入れ替える
衣替えの時機。

ある秋のこと、衣替えのついでに
整理整頓(?)を思い立ち
たんす、押し入れ、あっちこっち
引っ搔き回して大騒ぎ。

お香盒をつくったまま
じぃーと見ていた旦那ネコ、
「それ、全部、おまえの ”皮” か?」

知り合いのメス猫さんが陽だまりで
息子ネコにブラシをかけながら
「ネコたちって、いいよね。
衣替えしなくていいし、
年中同じ格好で歩いても
だれも何も言わないし」
「ホント、毎日着ていく ”皮 " 選びに
迷わなくていいし」
「”皮” ⁉」

≪寒なりこぐち≫ のある朝
湿ったお鼻で風の匂いを
クンクンしていた旦那ネコ、
出かける子猫に
「帰ってくるころは、寒うなりそやで。
おまえ、もう一枚、皮かぶって行け。」

            🍂

秋が深まっていきます。
やさしい思い出を落葉のように
降りつもらせて。

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