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タンパク質の消化と吸収


はじめに

前回まで3回にわたって「5大栄養素」について解説しました。
その中で、5大栄養素のうちタンパク質・脂質・炭水化物(糖質)はエネルギー源になる栄養素で、食べる量も多いため「3大栄養素」と呼ばれることにもふれました。

3大栄養素はどれも栄養素としてはサイズが大きく、食べ物に含まれた状態のままでは吸収することができません。そのため、吸収できる小さなサイズに分解(消化)する必要があります

食べ物の消化は、ヒトの場合は口での咀嚼(そしゃく)から始まります。咀嚼とは、食べ物を歯で噛んで細かくすることです。このとき、食べ物はだ液と混ぜ合わされて飲み込みやすい状態になると同時に、だ液に含まれる消化酵素が働きます。

ところが、ネコやイヌはあまり咀嚼をしませんし、だ液に消化酵素も含まれていません。
そのためネコやイヌでは、食べ物の消化は胃から始まります。

消化器のイメージ


消化器の働き

食べ物の消化については、「”消化する場所=消化器の部位”ごとの働き」と、「”消化されるもの=栄養素”が消化器の各部位でどうなるか」のふたつの側面からみることができます。

そこでまず、胃から大腸までの消化器の働きをなるべく簡単に解説します。

胃の働き
胃の働きは大きくふたつあります。

ひとつは食べたものをしばらく貯めておくことです。
通常、一度に食べる食べ物の量は小腸が処理できる量よりも多いため、食べたものをしばらく胃に貯めておいて、少しずつ小腸に送ります。

胃のもうひとつの働きは胃酸と胃液を分泌することです。

胃酸は名前のとおり、非常に強い酸性の液体です。そのため食べ物に付着しているほとんどの細菌が殺菌されます。また、胃酸によってタンパク質の立体的な構造がこわされて、消化されやすくなります。

一方、胃液にはタンパク質を消化する酵素の前駆体(酵素になる前の物質)と脂肪を消化する酵素が含まれています。タンパク質を消化する酵素の前駆体は胃酸の働きで酵素に変化します。
これらの消化酵素によって、タンパク質と脂肪がある程度まで消化されます。


十二指腸の働き
十二指腸も小腸の一部ですが、これ以降の小腸とは働きが違いますから、十二指腸の働きを小腸とは別に解説します。

十二指腸は、すい臓・胆のうと、すい菅・胆管によってつながっていて、それらによってすい液・胆汁(たんじゅう)が十二指腸に分泌されます。

すい液には、タンパク質を消化する数種類の酵素の前駆体・脂肪を消化する酵素・糖質を消化する酵素が含まれています。
また、すい液はアルカリ性で、胃から送られてきた酸を中和します。

胆汁には脂肪を細かくして、消化されやすい状態にする働きがあります。胆汁もアルカリ性で、やはり酸を中和する働きがあります。

さらに十二指腸からは何種類かの消化管ホルモンが分泌されています。そのうちのひとつはアミノ酸や脂肪に反応して分泌され、すい液や胆汁の分泌を促し、胃の内容物が十二指腸に送られるのをゆっくりにします。
脂っこいものをたべると胃がもたれるのはこのためです。

小腸の働き
小腸のおもな働きは、タンパク質・脂肪・糖質の最終的な消化と吸収ビタミン・ミネラル・水分の吸収です。
消化管で吸収される水分のうち、約80%は小腸で吸収されています。

大腸の働き
大腸のおもな働きは、塩分(ナトリウムイオン・塩素イオン)の吸収・腸内細菌の分解産物の吸収・水分の吸収と、うんちを貯蔵することです。


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