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「ビートパルプは危ない!?」          ペットフードの都市伝説 その3


はじめに

ペットフード選びに迷ったときなどにネットやSNSでペットフードについて調べてみると、ウソか本当かよくわからない話に出会うことがあります。

そんな、ちまたにあふれるペットフードについての真偽があやしい噂話のようなものを、僕は「ペットフードの都市伝説」とよんでいます。

このような情報にふれた飼い主さんの中には不安を感じる人も少なくないだろうと思います。
そこで今回は「ペットフードの都市伝説」の第3弾をお届けします。

※参考のためにこちらの記事もぜひご覧ください
・「ペットフードの都市伝説」を語る前に 「正しい」とはどういうことか


ビートパルプを使ったペットフードは体によくない!?

みなさんは「ビートパルプ」ってご存知ですか?
ペットフードの原材料を見てみてください。ビートパルプが使われているフードが結構あります。

ところが、ネットやSNSはもちろん、一部のトリミングサロンやしつけ教室などでも「〇〇というペットフードは、ビートパルプを使っているからダメ」と言われることがあります。

これって本当なのでしょうか?


ビートパルプってどんなもの?

まずビートパルプがどんなものなのかを見てみましょう。

ボルシチという料理はご存知ですか?
ウクライナ発祥のスープが赤い色をした煮込み料理です。
この料理には「ビーツ」という野菜が使われています。
赤い色のカブのような見た目の野菜です。

このビーツの仲間に「ビート」という植物があり、甜菜(てんさい)、サトウダイコン、シュガービートとも呼ばれます。

ビートがどんなものなのかは、”サトウダイコン”という名前が一番イメージしやすいように思います。
見た目は短いダイコンみたいな感じで(ビーツのように赤くありません)、根の部分にショ糖(砂糖)を15〜20%くらい含んでいます。
(他に水分が75%くらい、それ以外の成分が7%くらいです。)

その根の部分に圧力を加えて搾った(しぼった)ものから、砂糖を作ります。
サトウキビのダイコン版といったイメージですね(ただし、ダイコンとはまったく違う植物です)。

このときにできる、いわゆる ”搾りかす” が「ビートパルプ」で、中身はほとんどが食物繊維です。
つまり、「ビートから取れるパルプ」のことで、言われてみればそのまんまですね。

ウサギなどの小動物用 ビートパルプのペレット

ねこさん用トイレのチップではありません
畳のイ草のような匂いがします


「ビートパルプを使ったフードがダメ」と言われる理由

ビートパルプを使ったペットフードがダメだというお話では、おもに次のふたつがダメな理由とされています。

  • フードのかさ増し

    ひとつめの理由は、
    「安価な ”搾りかす” を使ってフードのかさ増しをしている」から
    というものです。

    「”搾りかす” でかさ増ししたようなフードは、肉や魚などの原材料の割合が少なく、品質が悪い」ということですね。

  • 危険な薬品が残っている

    ふたつめの理由は、
    「ビートパルプを作るには、
    ①ビートに圧力を加えて糖分を搾り出して残った食物繊維を取り出す方法
    ②硫酸などの薬品で処理して食物繊維を取り出す方法
    のふたつがある。
    ヒトの食品用や家畜の飼料には安全な①の方法で作られたビートパルプが使われているが、ペットフードには、より安価に作れる②の方法で作られたビートパルプが使われているため、硫酸という危険な薬品が残っている。」から
    というものです。

    (今回の記事では、これを「危険な薬品が残っている説」と呼ぶことにしますね。)

こんな話を聞くと、「やっぱりビートパルプを使ったペットフードは、ねこさん・わんちゃんの体によくなさそう」だと思いますよね。


でもこれらは、どちらもウソです。
あえて「間違い」ではなく「ウソ」と言わせてもらいます。

ですから、ねこさん・わんちゃんのフードを選ぶときに、「ビートパルプが使われているかどうか」を気にする必要はまったくありません

ではこれから、これらがウソである理由を解説しています。



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2頭のねこさんと暮らす、ペットフード会社に25年以上勤めた獣医師が、ねこさん、わんちゃんの健康と栄養学、ペットフードの本当の中身について、…

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