敗者 山竹宏・・・

「手打ち?何甘い事考えとるんや?お前ここはディズニーランドか?鼻くそ!本社の然るべき場所に書類が回る前に、こうして人事考課担当課長がわざわざ出向いてくれとるんや!という事は、この話自体なかったちゅう事や!一度噛み付き癖のついたお前は本日限りで自主退社の通知を営業所に通達しておくよってに、話はこれで終わりや!」

まるで汚物を見るような目で、吐き捨てた。

「そんな不条理は受け入れられません。」と自分は反論したが

「お前が動いたら、お前の部下全員田舎の営業所に移動やなマンション買ったばかりの営業マン辛い思いするんとちゃうか?田舎勤務になれば年収も200万円は落ちるよってに!あいつら移動先でお前の事を恨むやろうなぁ」

支社長は最後の切り札とばかり、更なる不条理をぶつけてきた。

「組織はな、わしみたいにハイハイゆうて上に従う人間が出世していくんやまぁちょい器用やと思うて、随分目をかけてきてやったんが飼い主に噛み付く畜生になりくさって、外国帰りかなんか知らんが、社会舐め取ったら又同じ事繰り返す羽目になるでぇ」

悪人高々と笑う・・正にそんな場面に居合わせている。

「さぁさっさと進退決めて、書類に判子押さんかい」

ここで抗えば、又更に不幸な思いをする営業マンを増やすだけだ。自分の保身の為にそんな事出来るはずもない。

「分かりました。色々とご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。」と頭を下げた。

すかさず、人事考課担当課長は用意されていた

「私山竹宏は社内規定を逸脱し、取引先の女性と不倫関係に至った事を認め本日限り、自主退社いたします。」 云々と記入されている退職届に用意されていた三文判で判をつき、部屋を後にした。

駐車場で車に乗り込んだ瞬間、自分でも驚く位の大声で「何故だ、悔しい」と長い時間絶叫と共に泣き尽くしていた。

営業所の私物は後日自宅に送られてくる。

もうこの時点で自分は社員ですらない。

「許してくれ」同じような不条理と悔しさを胸に退社して行った営業マンの顔を思い返し、又嗚咽した自分だった。


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