敗者 山竹宏・・・

「山竹さん、よく眠れましたか?」

目覚めた場所は精神病院だった。救急車の中で大分暴れていたようで手足に無数のあざが出来ていた。

「一体自分に何があったのですか?」

検診に来た看護婦にそう聞くと

「自律神経失調症ですね。ここ最近何か生活に大きなストレスが掛かる事はありませんでしたか?」

そう聞き返された。

会社での出来事から解雇まで、いきなりの離婚等を話している内に自分では自覚をしていなかったが、過度のストレスを受け、あの夜噴出した事を思い知った。

「感情をコントロールしてきたつもりでしたが、どうやらその抑圧が限界に達したんでしょうね」

そう答える他無かった。

男は何があっても我慢・・と教え込まれてきた最後の世代。今回のように一気に積み重なった。気鬱も時間が癒してくれるまではじっと我慢し続ける他なす術もなく、自宅に篭っていたのだが、結果は大騒動の末のこの有様だった。

具体的に、何処か症状が見えて、ここが悪いのか?と認知できる種類の病に掛かった事がなく健康的には自信があった自分だったので、心の病の事など想像すらしてこなかった。

一週間の入院を続けてみたが、痙攣の発作は再発せず、通院と言う形で、病院を出る事が出来た。

今まで築いてきたプライドも、自信も、一度救急車で精神病院に搬送されてしまうとくだらない事にこだわってきたように思えてくる。

帰宅はしてみたものの、未だ荷物を開封する気には成れなかった。

しかし、何時までも閉じこもっていると又、同じ事が起こるかもしれない。がむしゃらに働き続けてきただけの今までと、全てを失った今現時点を何処かで折り合いをつけていかなければいけない。

通院を続ける中で、少しづつだが模索を始めていた。

解雇された会社の人間関係とは接点を持ちたくもない、今は一人で頭を整理していく時期なのだろう。頭をリフレッシュさせるには、先ず通院を含めて一日に一回は外出する事、気分が少しでも優れる日は散歩をするようにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?