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【映画の中の詩】The Romantic Age/Naughty Arlette(1949)

エドモンドT.グレビル監督の1949年のイギリス映画。アメリカ公開時に『Naughty Arlette(いたずらなアルレット)』と改題されています。

謹厳実直の妻子ある女子校教師がフランス人生徒の恋の火遊びのターゲットにされ、彼女に溺れてしまう・・・。
メガネを取ったほうが素敵よ、と言われ、「壊れてしまった」などと言い訳しつつ、掛けずに彼女の元を訪れているというシーン。

シェリーの「Love’s Philosophy」という詩が読まれるのですが、最後のところを本来〈sweet work worth(やさしい営みの価値)〉であるのに〈 kissing worth(キスの価値)〉と読み変えています。

Love’s Philosophy BY PERCY BYSSHE SHELLEY
The fountains mingle with the river
   And the rivers with the ocean,
The winds of heaven mix for ever
   With a sweet emotion;
Nothing in the world is single;
   All things by a law divine
In one spirit meet and mingle.
   Why not I with thine?—

See the mountains kiss high heaven
   And the waves clasp one another;
No sister-flower would be forgiven
   If it disdained its brother;
And the sunlight clasps the earth
   And the moonbeams kiss the sea:
What is all this sweet work worth
   If thou kiss not me?


「戀の道理」シェリー(星谷剛一 訳)
泉は河にむすびあひ
河は海にむすびあひます、
み空の風はいつもいつも
やさしい想ひにまつはりあふのです;
世にひとりであるものはなく、
すべて聖い掟によつて
一つの精神にあひあふのです。
なぜ、私があなたとあひあつてならないのでせう。

御覽なさい、山はみ空に口づけします、
波は互にいだきあひます、
雌花が雄花をないがしろにするとすれば、
その罪はゆるされますまい。
陽光は大地をいだきます、
月光は海に口づけします、
もしあなたが私に口づけしないなら、
すべてかゝるやさしいいとなみに何の價値があるのでせう。

シェリ詩選 (英米名著叢書) https://dl.ndl.go.jp/pid/1670233/1/15

2つ目の詩、黒板に書かれているのは同じくシェリーの『Good-Night』の第3連。

Good-Night by Percy Bysshe Shelley 
I.
Good-night? ah! no; the hour is ill
Which severs those it should unite;
Let us remain together still,
Then it will be GOOD night.
II.
How can I call the lone night good,
Though thy sweet wishes wing its flight?
Be it not said, thought, understood--
Then it will be--GOOD night.
III.
To hearts which near each other move
From evening close to morning light,
The night is good; because, my love,
They never SAY good-night.

『よい夜を』シェリー(星谷剛一 訳)
「よい夜を」と仰るのですか、ああ、それはいけません、
むすび合はすべき人たちを引きさく時間はよくなどないのです。
まあここに一緒に居りませう、
それでこそよい夜なんです。

あなたのやさしい心をしのべば夜が翔けるやうに過ぎるとしても
獨りゐの淋しい夜をよいなどとどうして僕に言へませう。
それは言ふことも、考へることも、許すことも、しないでほしい挨拶なんです---
それでこそ、よい夜なんです。

夕の終りから明方まで
互の胸が互の近くに鼓動(うご)いてゐる者にとつてこそ、
夜はよいものなんです、戀人よ、
胸たちは決してよい夜をとは言はないのですから。

『シェリ詩選』星谷剛一 訳  https://dl.ndl.go.jp/pid/1670233/1/23


チャールズ・ウィリアムズ作曲の主題曲(「Jealous Lover」)は後にビリー・ワイルダー監督『アパートの鍵貸します』(1960)に転用され「Theme from The Apartmentとして有名になっています。

教諭の娘役のペトゥラ・クラーク(当時17歳)はのちに「恋のダウンタウン」(Downtown)などのヒット曲を持つスター歌手となります。
女優としてもピーター・オトゥール主演の『チップス先生さようなら 』(1969)の主人公の妻役など印象深い仕事をしています。


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