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【映画の中の詩】『夜は我がもの』(1951)

「わたしたちの使う言葉は 音を奏でるだけです
 でも 詩人の言葉は 光を放つのです」

原題は〈 La nuit est mon royaume〉「夜は私の王国」。

事故で失明した男性にジャン・ギャバン、視覚障害をもつ女性教師にシモーヌ・ヴァレール。
引用詩はボードレール 「風景」。福永武彦訳を使用しました。

シャルル=ピエール・ボードレール「風景」
(Charles Baudelaire 〈 Paysage 〉福永武彦訳)

霧の霽(は)れ間を通して見るのは、何と心地よいことだろう、
蒼空には星が生れ、窓辺にはランプが点(とも)されるのを、
大空には石炭の煙が河となって立ち昇るのを、
そして月がその仄白い魅惑を投げかけるのを。
僕はいくたびの春、夏、秋を見るだろう、
そして冬が、単調な雪に包まれて訪(おとず)れる時に、
僕はいたるところの鎧戸をしめカーテンをおろすだろう、
夜のなかに僕の妖精の宮殿を築くために。

その時僕は夢みるだろう、青ざめた地平線を、
庭園を、大理石の白い水盤に啜り泣く噴水を、
接吻を、朝なタなに囀る小鳥たちを、
そして「牧歌」が歌うすべての子供らしいものを。
「革命騒ぎ」も、僕の窓硝子の向うで空しく荒れ狂って、
僕の頭を一寸たりと机から持ち上げさせることはあるまい、
なぜなら、僕の意志をもって「春」を喚び起すという、
心の中から一つの太陽を引き出すという、そしてまた、
燃え上る思想をもって暖かい雰囲気をつくり出すという、
この悦楽のなかに、僕はいつまでも涵(ひた)っていたいのだから。

「風景」福永武彦訳 『ボードレール全集 第1巻』(人文書院)

ラストシーンの「LUX IN TENEBRIS」については〈ウィキペディア〉によると

ラテン語で「 Lux in Tenebris」は「闇の中の光」を意味します。
このフレーズはヨハネによる福音書のラテン語訳に属します。
「et lux in tenebris lucet et tenebrae eam non comprehenderunt」は「光は暗闇の中で輝き、暗闇はそれを理解しなかった」という意味です。(第1章第5節)

https://translate.google.com/translate?sl=auto&tl=ja&u=https://en.wikipedia.org/wiki/Lux_in_Tenebris


参考リンク:ボードレール「風景」の邦訳
福永武彦訳 『ボードレール全集 第1巻』人文書院 https://dl.ndl.go.jp/pid/1695087/1/147
鈴木信太郞訳 『惡の華』世界文学全集 第26 (ポオ,ボオドレール)筑摩書房 https://dl.ndl.go.jp/pid/1336412/1/160
堀口大學訳 『堀口大学全集 4』小沢書店 https://dl.ndl.go.jp/pid/12481276/1/85 
佐藤朔訳 『世界詩人全集 第7』新潮社 https://dl.ndl.go.jp/pid/1342544/1/68
村上菊一郎訳 『悪の華 : 全訳 改版』角川文庫 https://dl.ndl.go.jp/pid/1697095/1/70


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