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【映画の中の詩】光は闇の中で輝く

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映画と詩の交歓にまつわる文章を綴ります。 〈注:引用するのは主に1930〜50年代の映画です。 字幕と翻訳者明記のない引用詩は私の勝手訳(語句の入れ替え、省略有り)であることをご…
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#映画

【映画の中の詩】『欲望という名の電車』(1951)

「欲望」という名の電車に乗って 「墓場」という電車に乗り換え   六つ目の角まで行くように言われたんです 「極楽」に着いたら降りるようにと―― エリア・カザン監督。原作はテネシー・ウィリアムズの同名戯曲。 主演ヴィヴィアン・リー、マーロン・ブランド。 南部の裕福な名家に生まれ職業は高校教師という未亡人ブランチ(ヴィヴィアン・リー)と粗野で暴力的な貧しい職工スタンリー(マーロン・ブランド)という分かりやすい対比。 もっともブランチの家は没落し、彼女自身も不行状(男と酒)が理

【映画の中の詩】悪人と美女(1952)

冬の苺匙に圧(お)しをり別離よりつづきて永きわが独りの喪(も)  〈尾崎左永子〉ヴィンセント・ミネリ監督のハリウッドの内幕物。 ウィキペディアによると「ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』、ジョーゼフ・L・マンキーウィッツ監督の『イヴの総て』(いずれも1950年製作)と並ぶ著名な傑作」とのことですが、それほどでも・・・というのが個人的な感想です。 ジョージア・ロリソン(ラナ・ターナー)の亡父は名優として知られたハリウッドのスターでしたが、彼女自身は端役ばかりの売れ

【映画の中の詩】『若草物語』(1933)

『若草物語』のイメージを決定づけたキャサリン・ヘプバーン主演の映画 何度も何度も映画化されているルイザ・メイ・オルコットの同名小説のキャサリン・ヘプバーン主演版。 この作品以前にも二度映画化はされているそうですが、サイレントかつ現在は観るのが困難ということで、このヘプバーン版が実質、映画『若草物語』のルーツといえるかもしれません。 同名と書きましたがオルコットの小説の題名は『Little Women』。 日本でも当初はそのまま『小婦人』等翻訳紹介されていましたが、1933年

『ドリームチャイルド』(1985) https://youtube.com/watch?si=crDiDOj7qiyeg9Yx&t=2390&v=s-qFf66OEuw&feature=youtu.be 80歳のアリス。 〈いのちとは 夢でなければ なんなのだろう〉 〈「ドリームチャイルド」は、老いと死についてのすぐれた映画であるとも言えるだろう。〉   (谷川俊太郎『風穴をあける』 角川文庫)

『野いちご』 https://amzn.to/4geKMm8 プライムビデオで観れます。 〈私が探し求める友はどこにいるのだろう? 夜が明けると、私の憧れは増すばかりです 日が暮れても、私はまだ彼を見つけることができない 心は燃えているのに〉Johan Olof Wallin

【映画の中の詩】『田園に死す』(1974)

『母さん、どうか生きかえって、もう一度あたしを妊娠してください。』寺山修司監督・脚本。 寺山修司自身の歌集『田園に死す』と寺山脚本で1962年に同じ八千草薫主演で制作されたテレビドラマが元となっています。 「母さん、どうか生きかえって、もう一度あたしを妊娠してください」と言う八千草薫と父無し子を生んだ村の女による間引きのシーン。 自分自身を妊んで、自分自身を流産する、 と読み取って考えてみました。 映画全体がそのようなイメージの交錯のように思えます。 「わたしという人

【映画の中の詩】『神の道化師、フランチェスコ』(1950)

「主よ私を(平和のための)道具に使い給え」ロベルト・ロッセリーニ監督。フェデリコ・フェリーニが脚本に参加しています。 「フランチェスコの平和の祈り」のシーン。 聖フランチェスコの精神を表すものとしてカトリック、プロテスタントの枠を超えて広く知られ唱えられる祈りなのですが、実はフランチェスコ作ではなく、作者不明のまま広まったものだそうです。 映画ではこのフランチェスコをはじめとして実際のフランシスコ会修道士の人たちが役を演じています。 聖フランチェスコ伝としては私は子供の

【映画の中の詩】『ハンナとその姉妹』(1986)

ウディ・アレン監督。 エリオットは妻ハンナの妹リーに恋をしてしまう。彼女への思いを直接には言えず、二人で立ち寄った書店でE.E.カミングズの詩集をプレゼントする。「112ページの詩を読むことを忘れないで!」と。  『こんなところに来たことなかった』E.E.カミングズ あなたのふとした視線が いともたやすく ぼくをひらいてしまう  ぼくはゆびのように 自分を閉じていたのに いつも  あなたはひらいてゆく ひとつひとつ 巧みに 神秘的に  春が彼女の最初の薔薇の花弁をひらくよう

【映画の中の詩】『恋の情報網』(1942)

神、そらに知ろしめす。 すべて世は事も無し。『恋の情報網』(原題Once Upon a Honeymoon)。1942年。 ジンジャー・ロジャース、ケイリー・グラント主演。 戦時中の反ナチス・ドイツ映画ですがコメディ仕立ての展開の作品になっています。 朗読されるのはロバート・ブラウニングの長詩『ピッパが通る』のなかの一節。 上田敏が訳詩集『海潮音』で取り上げ、日本でもよく知られています。 『ハムレット』第一幕 第三場からの引用は名言集向きのセリフですね。 最後のはアーヴ

【映画の中の詩】『嵐の青春』(1941)

「我が運命を決めるのは我なり、我が魂を制するのは我なり」 監督は『チップス先生さようなら』(1939)、『恋愛手帖』(1940)等のサム・ウッド。 ドレイクは事故にあった際に個人的な恨みを持つ医師によって必要もない両足切断の手術をされてしまいます。 友人パリスはその事実を告げる前に英国の詩人ウィリアム・E・ヘンリー(1849年8月23日 - 1903年7月11日)の『インビクタス(敗れざる者)』という詩の一節を引用します。 この詩の作者ウィリアム・E・ヘンリーは骨結核で左

【映画の中の詩】『誘拐魔』(1947)

フィルム・ノワールが咲かせた「悪の華」。 犯人はボードレール?ダグラス・サーク監督。 警察に送られてくる奇妙な詩。その内容どおりに若い女性の連続失踪事件が起こる。 その詩の特徴から警察は犯人はボードレールに心酔していると推理する。 ロバート・シオドマク監督『罠』(1939)のリメイク作品。 元になった『罠』(PIÈGES)は『悪魔が夜来る』(マルセル・カルネ監督)のマリー・デア主演のフランス映画。 ハリウッド映画でありながらボードレールが事件を解明する鍵になっているのはそ

【映画の中の詩】『「ピンパーネル」スミス』(1941)

おやすみなさい。「別れは甘い悲しみです」 それは何ですか? ドイツ文学で最も有名なフレーズの一つです。 レスリー・ハワード監督、主演の反ナチス映画。レスリー・ハワードは両親ともにユダヤ系である。 ハワードが演じるのは表向きは考古学者ホレイショ・スミス教授としてドイツに入国してドイツ文明におけるアーリア人起源の証拠となるものの発掘調査をナチスの支援を受けて行っているが、裏では強制収容所の囚人を脱出させる手引をしている、という役。 ハワードが過去に主演したイギリス映画『紅はこ

【映画の中の詩】『真夏の夜の夢』(1935)

狂人と恋人と詩人は空想の塊だ 詩人の目は 狂おしく乱れて 天かとおもえば地、地かとおもえば天へと駆けめぐる やがて その空想力で謎そのもののかたちをとらえる  ーーシェイクスピア『真夏の夜の夢』(第5幕第1場) シェイクスピア原作。“A Midsummer Night's Dream“ 1935年の制作。公開時には芳しい興行成績を残せなかったものの、今日ではシェイクスピア映画としては上出来のものという評価を得ているようです。 「主役」ではないのですが、妖精の女王テ

【映画の中の詩】『悪魔が夜来る』(1942)

「戦争に立ち向かえる唯一の映画、それは恋愛映画だ」(ジャック・プレヴェール)マルセル・カルネ監督『悪魔が夜来る』(1942)。ジャック・プレヴェール脚本。原題『Les Visiteurs du Soir』 ナチス・ドイツ占領下で制作された。 強権によって愛する娘を我が物にしようとする悪魔に対して純粋な愛を貫こうとする抵抗を描いたこの映画の意図するところは明らかですが、カルネとプレヴェールは時代を中世に設定したおとぎ話の体裁を取ることで、ナチス・ドイツから、その真意を悟られる