マガジンのカバー画像

【映画の中の詩】光は闇の中で輝く

56
映画と詩の交歓にまつわる文章を綴ります。 〈注:引用するのは主に1930〜50年代の映画です。 字幕と翻訳者明記のない引用詩は私の勝手訳(語句の入れ替え、省略有り)であることをご…
運営しているクリエイター

2024年7月の記事一覧

【映画の中の詩】『田園に死す』(1974)

『母さん、どうか生きかえって、もう一度あたしを妊娠してください。』寺山修司監督・脚本。 寺山修司自身の歌集『田園に死す』と寺山脚本で1962年に同じ八千草薫主演で制作されたテレビドラマが元となっています。 「母さん、どうか生きかえって、もう一度あたしを妊娠してください」と言う八千草薫と父無し子を生んだ村の女による間引きのシーン。 自分自身を妊んで、自分自身を流産する、 と読み取って考えてみました。 映画全体がそのようなイメージの交錯のように思えます。 「わたしという人

【映画の中の詩】『神の道化師、フランチェスコ』(1950)

「主よ私を(平和のための)道具に使い給え」ロベルト・ロッセリーニ監督。フェデリコ・フェリーニが脚本に参加しています。 「フランチェスコの平和の祈り」のシーン。 聖フランチェスコの精神を表すものとしてカトリック、プロテスタントの枠を超えて広く知られ唱えられる祈りなのですが、実はフランチェスコ作ではなく、作者不明のまま広まったものだそうです。 映画ではこのフランチェスコをはじめとして実際のフランシスコ会修道士の人たちが役を演じています。 聖フランチェスコ伝としては私は子供の

【映画の中の詩】『ハンナとその姉妹』(1986)

ウディ・アレン監督。 エリオットは妻ハンナの妹リーに恋をしてしまう。彼女への思いを直接には言えず、二人で立ち寄った書店でE.E.カミングズの詩集をプレゼントする。「112ページの詩を読むことを忘れないで!」と。  『こんなところに来たことなかった』E.E.カミングズ あなたのふとした視線が いともたやすく ぼくをひらいてしまう ぼくはゆびのように 自分を閉じていたのに いつも あなたはひらいてゆく ひとつひとつ 巧みに 神秘的に 春が彼女の最初の薔薇の花弁をひらくよう

【映画の中の詩】『恋の情報網』(1942)

神、そらに知ろしめす。 すべて世は事も無し。『恋の情報網』(原題Once Upon a Honeymoon)。1942年。 ジンジャー・ロジャース、ケイリー・グラント主演。 戦時中の反ナチス・ドイツ映画ですがコメディ仕立ての展開の作品になっています。 朗読されるのはロバート・ブラウニングの長詩『ピッパが通る』のなかの一節。 上田敏が訳詩集『海潮音』で取り上げ、日本でもよく知られています。 『ハムレット』第一幕 第三場からの引用は名言集向きのセリフですね。 最後のはアーヴ

【映画の中の詩】『嵐の青春』(1941)

「我が運命を決めるのは我なり、我が魂を制するのは我なり」 監督は『チップス先生さようなら』(1939)、『恋愛手帖』(1940)等のサム・ウッド。 ドレイクは事故にあった際に個人的な恨みを持つ医師によって必要もない両足切断の手術をされてしまいます。 友人パリスはその事実を告げる前に英国の詩人ウィリアム・E・ヘンリー(1849年8月23日 - 1903年7月11日)の『インビクタス(敗れざる者)』という詩の一節を引用します。 この詩の作者ウィリアム・E・ヘンリーは骨結核で左

【映画の中の詩】『誘拐魔』(1947)

フィルム・ノワールが咲かせた「悪の華」。 犯人はボードレール?ダグラス・サーク監督。 警察に送られてくる奇妙な詩。その内容どおりに若い女性の連続失踪事件が起こる。 その詩の特徴から警察は犯人はボードレールに心酔していると推理する。 ロバート・シオドマク監督『罠』(1939)のリメイク作品。 元になった『罠』(PIÈGES)は『悪魔が夜来る』(マルセル・カルネ監督)のマリー・デア主演のフランス映画。 ハリウッド映画でありながらボードレールが事件を解明する鍵になっているのはそ