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No.52 1984年 6年生 アフリカ研究-読解・思考・表現する-

 2023年1月現在、最も深刻な国際問題はロシアのウクライナへの侵略戦争でしょう。2022年2月24日に侵略が始まりました。現代社会でこのようなことが実際に起こることに大きな驚きがありました。この大きな問題によって世界の国々や地域で起きている深刻な問題にあまり注目されないことがあります。
 その1つにソマリア・エチオピア・ケニアの飢餓問題があります。『朝日新聞』2022年11月13日朝刊一面に「招いた干ばつ 消え入る命」「ソマリア飢餓 年末には30万人」の見出しで1歳の女の子の写真と共に報道されていました。
朝日新聞デジタル
「招いた干ばつ、消え入る命 ソマリア飢餓、年末には30万人」
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15473217.html?iref=pc_ss_date_article
【写真まとめ】「アフリカの角」で異常な干ばつ 気候危機の最前線
https://digital.asahi.com/articles/ASQD67FQ8QD6DIFI00M.html
WFP国連世界食糧計画(国連WFP)のホームページでもソマリア飢餓の実状が分かります。
https://ja.wfp.org/news/somarianiokeruganhatsunojinjishitai
 
 私が初めて6年生の担任をしたのが1984年でした。その当時の最大の国際問題はアフリカ・エチオピアの飢餓問題でした。テレビや新聞のメディアが多くの報道をしていました。現在のようなネット社会ではありませんでしたので、テレビ番組をビデオで録画したものや新聞記事を切り抜いて学習材にしました。NHKアーカイブが当時の飢餓の状況を記録しています。
NHKアーカイブ「アフリカ・エチオピアの飢餓|NHK放送史(動画・記事)」
https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009030668_00000
 6年生の「アフリカ研究」(16時間)は次のように進められました。

1.現在の日本の食生活とアフリカ研究の方法(2時間)
2.アフリカの文化―ひょうたんと音楽(2時間)
3.アフリカの国々と食料不足国(1時間)
4.テレビや新聞からアフリカの人々の生活を考える(3時間)
5.アフリカの子どもたち(4時間)
6.アフリカ研究を表現する(4時間)

 学習材はNHKテレビを録画したもの、新聞記事、『ユニセフ子供白書』、ユニセフ開発教育キット「モーリタニアの少女ファティメットゥ」など。
 資料を読解→読解したことをもとにして思考→思考したことを表現 というプロセスを取りました。 
ここでは「アフリカ研究を表現した」子どもの作品を提示します。子どもの表現は、ゲーム・紙芝居・カード・漫画など自由に創作していました。

 飢餓の状況に苦しんでいるエチオピアが自立するにはどうしたらよいかを子どもなりに考えゲーム(双六)にしたものです。NHK「アフリカ飢餓地帯」1984年12月放送、朝日新聞「飢えるアフリカ危機深まる」1~8、1984年12月10日~19日などを参考にしています。

① スタート(内乱!)②大雨が降る ③大干ばつ(スタートに戻る) ④作物が取れなくなり水不足 うえる人がしだいに増える ⑤救援物資が増える ⑥日本から青年海外協力隊が来る ⑦ポンプができる(⑧に進む) ⑧ポンプの使い方の指導を受ける ⑨救えん物資が届く ⑩ポンプがこわれる(⑦にもどる) ⑪港についた救えん物資がトラックが少なくて運べない(⑨にもどる)⑫倉庫の穀物がなくなる(⑨にもどる) ⑬乳幼児死亡率が急げきに増える。夜の温度が低くなりこごえ死ぬ。砂ばくの風土病がはやる ⑭医者が来る ⑮救えん物資が届く ⑯救えん物資を運ぶ トラックがパンクする(⑮にもどる) ⑰井戸の水がなくなる(⑬にもどる) ⑱ユニセフ親善大使の黒柳徹子さんが来る(⑳に進む) ⑲毛布がたく山来る ⑳こいトウモロコシのおかゆが食べられるようになる ㉑救助にたよりすぎ(⑲にもどる) ㉒農民たちが組合をつくる。農機具の設備が整う ㉓子供達の学校ができる。お母さん達も指導を受ける ㉔政府の命令で組合を解散させられる(㉒にもどる) ㉕ゴール(農業の自立への道が開ける)

⑦、⑩、⑪、⑰、㉑、㉔などで進み方に工夫がされています。「救助にたよりすぎ」「農民達が組合をつくる」「子供達の学校ができる。お母さん達も指導を受ける」などは当時のアフリカの自立にとって最も大切なことを言い当てており、小学生として大変よく考えていました。
 
 もう一つ漫画で表現した子どもの作品を紹介します。B5版の大きさのノート41枚というかなりのページがありますので、一部になります。

 私がアフリカに行き教師をすることを突然教室で話すことから始まります。

 作者の6年生が一緒にアフリカについてきて、学校に行くという設定をつくっています。

 当時のアフリカ国々の女子の小学校就学率を載せています。

 今日一日のようすを日記につけています。「昼はあついが夜はうそのように寒い」とアフリカの気候についても言及しています。

 音楽を通してアフリカの文化に目を向けています。当時のアフリカの飢餓の報道では貧しさだけが強調されていましたが、日本と同じようにいろいろな文化があることを学んでいます。

 木の実をくりぬいてつくるつぼの技術について、質素な食事について書いています。

 乳児死亡率についても触れ、水の確保の難しさとそれが子どもの仕事であることに注目しています。


 当時のアフリカにとって、水・医者・技術者・食物・正しい政治・薬が大切だとし、そのためには軍事費から出せないかと書いています。


 必要なのは物だけでなく、人の援助であることも強調しています。


 この作品を創ってみての子どもの感想です。 
「私はこのアフリカ研究をして、前よりアフリカのことをしり、そしてなにが必要か、どんな物が不足か、よくわかりました。まだまだ全然わからないことは山ほどあるけど、自分でも調べたりしたいです。この授業は六年生の社会科でやるのはもったいないと思いました。日本中世界中人にこのような研究をしてもっとアフリカのことをしってほしいです。話はかわるけれど、軍事費をせつやくする話をきいて、私はせつやくなんてケチくさいことをしていないで、全部あげちゃえばなんて考えてしまいました。これからはアフリカの人たちのことを研究した私は、アフリカをおもいだして、がまんする人間になりたいです!」
 
 この子どもは漫画を描くのが好きでした。この中にはアフリカの気候、文化、食事、水、学校のようす、女の子の小学校就学率、乳幼児死亡率、世界の軍事費、技術者や医者の必要性、救援センター、タンザニアのロガティーさん(黒柳徹子さんが「テレビ朝日」や「朝日新聞」で紹介)などの内容が含まれています。さらに、アフリカの文化にも注目することは同じ人間としての自覚を持つためにも大切な事でした。研究を終えての感想で、「まだまだ全然わからないことは山ほどあるけど、自分でも調べたりしたいです。」という言葉は、自由研究の原点に触れた大切な感想と思いました。
 アフリカの飢餓の状況を新聞やテレビを通して読解し、どのようにしたら助けることができるか考え、それをいろいろな方法で表現する子どもたちの真剣な学習姿勢に驚きました。開発教育・国際理解教育の教育的意義を子どもたちに教えてもらった実践でした。

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