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No.29 1981年~  私立小学校の現在の実践は教育研究・教育学研究の対象にならないのか?

 1981年に私立小学校の教員になってから現在まで「私立小学校の現在の実践は教育研究や教育学研究の対象にならないのか」という疑問を抱えてきました。大正自由教育や戦後新教育の実践として、成城小学校、成蹊小学校、明星学園、玉川学園、和光学園、自由学園などの研究はあります。しかし、現在の私立小学校の実践が教育研究や教育学研究の対象にされていることはあまりないのではないでしょうか。私が教員になってからいくつかの民間教育団体や教育系学会に所属していましたが、私立小学校の教員で所属して参加されていた方は特定の学校以外からは少なかったように思います。
 教育学を研究されている、一橋大学大学院社会学研究科教授の木村元氏の著作『学校の戦後史』(2015年、岩波新書)は学校の歴史を考えるうえでとても参考になる文献ですが、私立小学校への記述は全くなかったと思います。学校=公立学校という図式は日本の教育研究や教育学研究では当たり前のことでしょう。国立大学の附属小学校は学校独自に公開授業を実施して研究的な授業を試みていますので、教育研究や教育学研究をリードしている存在でもあります。
 日本の学校は国立・公立・私立で構成されていますが、研究的には私立小学校は国立・公立とは一線を画されているように思います。教育学者や教育研究者、ジャーナリストが執筆する一般向けの文献でも私立小学校関係は極端に少ないのが実状です。「私立小学校研究所」の「私立小学校を知ろう」
を参考にして下さい。
 研究が少ない原因、それは私立小学校の独自性が関係しています。私立小学校の学校数は日本の小学校数のわずか2.1%です。私立小学校は私立学校法に基づき学校法人が経営する小学校及び、構造改革特別区域では民間企業や法人が設立する小学校のことです。2020年4月現在で日本には236校あると考えられ、2022年には数校増えていると思われます。インターナショナルスクールやフリースクールが発展した学校などもあります。正確に把握することは結構難しいです。
 私立小学校の特色を列記します(私立小学校が236校あるとの設定で)。
①  男子校(3校)、女子校(23校)、共学校(210校)がある。②宗教を母体とした学校がある(97校)。キリスト教プロテスタント、カトリック。仏教。新宗教。③大学まで系列の学校がある。高校まで系列の学校がある。中学受験に特化した学校がある。④異学年で既存の教科にとらわれない活動を進める学校がある。⑤受験がある。⑥受験者が受験専門の幼児教室に通うことが多い。⑦編入試験をしている学校がある。⑧授業料・寄付金などがある。⑨すべての都道府県に設置されていない(青森県、秋田県、山形県、新潟県、鳥取県、島根県、山口県、香川県、愛媛県、佐賀県、熊本県には設置されていない)。⑩日本私立小学校連合会に加盟している学校(194校)、加盟していない学校(42校)がある。加盟していない学校はこの20年ぐらい前から設立した学校に多く、児童募集・教員採用・カリキュラムなど比較的自由な学校運営を行っているようである。「私立小学校研究所」の「私立小学校とは」「どんな小学校があるの」を参考にして下さい。
 国立・公立との違いがあまりにも大きいと思われることにより、私立小学校が研究対象になりにくいことかもしれません。経済的な格差が関係していることも一因でしょう。
 メディアの教育に関する報道も圧倒的に公立学校が対象です。報道を受ける側も子どもの多くは公立に通学していることでしょう。私も3人の子どもはみんな中学校までは近くの公立学校に通いました。
 
『朝日新聞』が「地域総合面」で2018年2月からスタートした「変わる進学」のページでは、小学校から大学までの進学の状況や学校の変化を取り上げていますが、私立小学校の受験やカリキュラム、教育方法などの話題も取材され記事に掲載されています。2022年6月11日には「共働き家庭 増える小学校受験」「託児施設 受験対策にニーズ」「学校選び、コスパ重視■一人っ子に何でも」の見出しで、幼児教室、受験情報関係者や大学の研究者に取材しています。研究者は青山学院大学の小針誠教授です。教育学研究者では数少ない私立小学校も研究対象にしている教育社会学者です。

『朝日新聞』2022年6月11日朝刊

 この朝日新聞デジタルの「変わる進学」は有料会員記事ですが、一部は読めますので参考にして下さい。
 
 また、『朝日新聞』が教育の連載記事「いま子どもたちは」で、2020年4月に長野県軽井沢に設立した私立学校風越学園について2022年1月から4回の連載をしました。タイトルは「『 』になる@風越:」です。
こんな文章で記事は始まります。「クラスも、決まった席やチャイム、校則、定期テストもない。『先生』と言わず、大人も子どもも本人ののぞむ名前で呼ぶ。子どもと大人は学校をつくる仲間。ともにじっくり、ゆったり、たっぷり、まざって『 』になる。『 』の中は学びながら更新していく――。」「学校教育法第1条に定められた私立の幼稚園(年少~年長)と義務教育学校(9学年)だ。」
 この朝日新聞デジタルの「いま子どもたちは」も有料会員記事ですが、一部は読めますので参考にして下さい。
 私立小学校が教育研究や教育学研究の対象になるにはどのような方法があるのか、模索していく意向です。

参考
「変わる進学」「小学校受験する理由、『公立不信』減少 増えているのは…」
「いま子どもたちは」「『 』になる@風越:」


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