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木梨 半次郎という漢

生国は信濃の鬼無里(きなさ)
平 維茂が鬼女を退治したとされる紅葉狩の伝説以前は水無瀬と呼ばれていた

木梨という性は鬼無からとったらしい

どこをどうして現在に至るのか数年近くにいるがさっぱりわからない

半次郎は寡黙であり あまり他人と交流がなくつかみどころのない人物である

生業としている鬼祓いはどうやら明治政府から秘密裏に請け負っているようである


1871年 明治政府の参議として活躍していた廣澤眞臣は九段坂にて何者かに暗殺されている 史実では犯人が特定されないまま現在に至っているが 半次郎はこの事件に関係しているともされている 


イメージ画像雰囲気だけは〇

あまり多くを語らず謎だらけなのだが かつて私はこの漢に救われたらしい

ら・し・い というのは ほかでもない 記憶にないのだ

あれは確か3年程前のこと
その日の夕刻から浅草にある遊郭に贔屓にしている遊女お江を求めていた
当時 我ながら恥ずかしいと思うほどお江に熱を上げていた
部屋に通され お江に酌をさせたところまでは覚えているのだが…

我に返ったのは 背中に激痛を感じ 目覚めた時
今でも右肩から左腰に残る打撃痕と折れていたであろう肋骨は雨が降る度に痛みはじめる
この漢がどういう経緯で遊郭にいたのか尋ねても一切語られないので半ばあきらめてはいるのだが 背中の傷と数本の骨だけで済んだのは間違いない
その事件後 私は実家の呉服問屋からは勘当され この漢に拾われた
そういう意味では感謝しかない 使い走りをすれば僅かばかりだがと心づけは忘れない そういう漢だ

士族出身ではないらしいが 剣術の腕前は素人目からも達人と呼べよう

廃刀令が発布された年のある春の日
私は八丁堀に向かう半次郎に同行していた
進行方向から一人の警官が我々に向かって近づいてくる
おそらく半次郎が帯刀しているからに違いなかった

「貴様 その腰につけた刀は何だ! 廃刀令と知ってのことか!」

警官の名は藤田五郎
半次郎は口元に薄っすらと笑みを浮かべ 小馬鹿にしているようにも見えた
さっさと免罪符出せば済むのに…

「貴様!わしを愚弄するのであれば容赦はせんぞ!名を名乗れ!」
「拙者 木梨 半次郎と申すもの そこをどいて下さらぬか」

警官は抜刀し 刃先を半次郎に向け突進した

一瞬の出来事で何が起こったのか分からなかった
警官は腹部を押さえ膝をついている

半次郎は免罪符を警官に提示する
最初からそうすればよいのにこの漢は人が悪い

後に分かったことであるが
この藤田五郎という警官 元新選組 三番隊組長 斎藤一であった
斉藤と言えば その辺の剣士とはわけが違う
半次郎は斉藤の「牙突」をかわし 腹部に一撃を入れたのだ

その漢は帯刀を許された剣の達人であり 鬼祓いを生業にしていることしか
当時の私には知る術はなかったのだ

イメージ画像雰囲気は好きだが…



続編作ってみましたが…
どんとこい2024秋


最後までお読みいただき ありがとうございました😊

短編小説 「妖刀村雨」の続編です

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